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くらいくらい電子の森に・・・
第十二章
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係者じゃないから、隔離病棟に入れない』
「…そ、それは」
『それに、あなたには大事な役目がある』
流迦ちゃんは、弓形の唇を吊り上げて微笑んだ。
『私を確保する目的はただ一つ。私を人質にして、紺野からMOGMOGの完成版プログラムを巻き上げること。…そして紺野は恐らく《非常に人間的な選択》をする』
…分かる気がした。あの人は根がいい人だから、肝心なところで自分だけが犠牲になるような選択をすると思う。そしてそれは、必ず状況を悪化させる。
『知らない人間に、私のプログラムを濫用されるなんて、論外極まりないわ。…でも紺野は馬鹿だから、私の命を切り札に出されればプログラムを丸ごと差し出すような真似をしかねないのよ』
流迦ちゃんの表情が、微妙に変わった気がした。でも僅かな変化だったから、何を思っているのかまでは分からない。…ただ『得意げ』な空気が、読み取れた。
「…そうだね」
『だから、あなたが紺野を止めなさい』
「でも流迦さんは!」
『止めた上で、私を救い出す方法を、あなたが考えればいい』
携帯が、何かをダウンロードし始めた。うゎ最悪、ウイルスか何か送る気かよ!と、必死に電源を落とそうとするが、電源は落ちないし通話も切れない。やがて、ダウンロードが終わってしまった。
『カードキーの情報よ。…これでその携帯を電子ロックにかざせば、隔離病棟に入れる』
「…すごいな」さすが、天才プログラマー。さっきはそうやって脱走したのか。
『何がすごいの…あなたは私と同じ種類の人間でしょう』
「どういう…?」
『目を見て、分かった。目的を与えられれば、遂行するための手段には大して拘らない…ねぇ?それが、あなたでしょう』
流迦ちゃんの画像がぷつっと消えて、待ち受け画面にもどった。
『私と同じ、人でなし…ふふふふふふ…』
通話が切れて何秒か、僕は呆然としていた。
「ね、戻ろう。もう車椅子押してる場合じゃないよ!」
柚木が走り出した。――反対方向へ。
「ちょっ、そっち行ったら烏崎と鉢合わせるからっ!」
柚木を呼び戻して、渡り廊下に向かって走った。…これから先、この微妙なタイムロスが僕の日常になるのだろう。

そんなことに気をとられていたから、僕はこの時、大変なことを見落とした。
ノーパソの電源が、ふっつりと切れていたことを…。



―――『それ』は起こった。

ご主人さまの髪に、肩に、柚木の両手が絡みついた。白くて、長い腕。耳に口づけてから囁いた言葉を、集音マイクが捉えた。
「姶良……好き」
ハンマーで、頭を殴られたみたいな眩暈…。ご主人さまの顔が一瞬、泣きそうに歪んで…そのあと、うっとり蕩けそうに、顔を上気させて呟いた。
「もう一度、言って……」


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―――いや、見たくない。やめて
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