第四幕その六
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第四幕その六
「不実な女よ」
彼は吐き捨てるようにしてそう言った。
「お怒りをお鎮め下さい」
「どうしてできようか」
「そしてお逃げ下さい」
「出来ぬ」
「そこを何とか」
「くどい!」
彼は怒りに燃えた目でレオノーラを見据えた。32
「恥知らずが。私を裏切ってなおその様なことを言うか」
「私は裏切ってなどいません」
「なら証拠を見せてみよ」
「証拠ですか」
「そうだ。見せられるのならな」
彼女を睨みつけたまま言う。
「どうだ、出来るか」
「はい」
レオノーラは観念したのかこくり、と頷いた。
「それは・・・・・・」
「それは」
マンリーコは彼女の言葉を繰り返す。
「私の顔です」
「顔!?」
「はい。この顔を御覧下さい」
「むう」
見れば青い。月の光に照らされているその顔は蝋の様に白かった。
「この顔がその証拠です」
「どういうことだ」
「おわかりになりませんか」
彼女は悲しい顔になった。
「この死の淵を覗いた顔を」
「死を」
「はい」
彼女は答えた。
「そうです。私は間も無く死にます」
「嘘を言え」
「いえ」
だがその言葉に首を横に振った。
「これがその証拠です」
そしてその場にゆっくりと崩れ落ちた。まるで糸が切れた人形のようであった。
「マンリーコ様」
「レオノーラ」
マンリーコは彼女に駆け寄った。
「どういうことだ。死などと。まさかそれも」
「嘘だと思われますか?」
「いや」
彼女の目を見る。嘘を言っている目ではなかった。
「嘘ではないな。それはわかった、安心してくれ」
「はい」
それを聞いてようやく微笑んだ。
「一体どういうことなのだ。教えてくれ」
「私は貴方のお仲間に案内されてここまで来ました」
「そして」
「それから伯爵にお願いして牢獄を開けてもらったのです。あの人の妻になることを条件に」
「そうだったのか」
「そしてその時に密かに毒を飲みました。今それが全身に回ったのです」
「ではもう」
「はい」
レオノーラは微かに頷いた。
「私の手を触れてみて下さい」
「ああ」
マンリーコは彼女の手に触れた。言われるがまま。それは氷の様に冷たかった。
「これでもうおわかりでしょう。私は間も無く死にます」
「何を言う、死んではならん」
マンリーコは彼女の身体を揺らしてそう声をかける。
「まだこれからだというのに」
「いえ」
だがレオノーラはまた首を横に振った。
「貴方以外の方の妻となるのなら。そして貴方をお救いすることができるのなら」
弱くなっていく声でそう語る。
「私は喜んで死にましょう」
「馬鹿な、私の為に」
「そう、貴方の為に」
レオノーラは最後に微笑んだ。
「さよ
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