暁 〜小説投稿サイト〜
トロヴァトーレ
第四幕その五
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第四幕その五

「きっとね」
「お願いだよ」
 アズチェーナはまた言った。
「あたしはそれを聴きながら眠るから」
「うん、お休み母さん」
 こうしてアズチェーナは眠りに入った。そして後にはマンリーコだけが佇んでいた。そこに誰かが来た。
「処刑にはまだ早い筈だが」
「処刑ではありません」
 それに答えたのは女の声であった。
「マンリーコ様、貴方は救われるのです」
「その声は!」
 マンリーコはそれを聞きハッとした。
「レオノーラ、貴女なのか!?」
 マンリーコは立ち上がった。そして彼女を見た。
「はい、私です!」
 アズチェーナが暗闇の中から出て来た。監獄の窓から差し込める光が彼女の顔を照らし出していた。
「貴方の御命を救いに参りました」
「馬鹿な、貴女一人でか」
「はい」
 彼女はそれに答えた。
「早く、どうかお逃げになって下さい」
「いや」
 だがマンリーコはそれに渋った。
「気持ちは有り難いが」
「何故ですか!?」
「母さんがいる。置いてはいけない」
「それでしたら御母上と一緒に」
「だが母さんはもうすぐ」
 この世を去るのだ。それを思うと足が動かなかった。
「ですが今のままですと二度と」
「それはわかっているが」
 アズチェーナを見る。安らかに眠っている。そんな彼女を置いていくことなどできはしなかった。
「どうするべきか」
 ここでレオノーラを見た。
「ところで貴女はこれからどうするのだ?」
「私はここに残ります」
 彼女は青い顔でそう答えた。
「何故」
「理由は御聞きにならないで下さい。それよりも早く」
「いや、それならば尚更ここから出られない」
「何故ですか!?」
「貴女まで置いてどうして行けるのか」
「私のことはいいですから」
「駄目だ」
 マンリーコはそう答えて首を横に振った。
「そこまでして逃げて何になるというのだ。そんなことは私は望まない」
「しかし」
 レオノーラも必死であった。だがそれが裏目に出た。マンリーコはあることに気付いた。
「ところで一つ聞きたいことができた」
「何でしょうか」
 レオノーラは青い顔のままそれに応えた。
「私を逃がすということだが」
「はい」
「貴女はどうしてそのようなことができるのだ!?一体どうしてだ」
「それは」
 レオノーラは口ごもった。マンリーコはそれを見て一層不信感を募らせた。
「何故口ごもる。言えない事情でもあるのか!?」
「いえ」
 言える筈もなかった。こうしている間にも死神が彼女の命を蝕んでいるのだ。
「伯爵か」
 マンリーコも愚かではない。すぐに勘付いた。
「それは・・・・・・」
 レオノーラはそれを聞き顔をさらに青くさせた。
「あの男に心を売ったのか」
「いえ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ