ほどけぬ糸
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クから飛び出た水が二人を等しく濡らす。濡らすがそれに反して二人の表情は対極的だ。切嗣は底が見えない鉄仮面に対し、ラウラのそれは薄い『笑い』だ。酷薄な、それでいて哀しみを感じさせるパラドックスな笑み。水に濡れた顔と相まって、まるで泣いているようにも見えた。
「……」
「答えろ……一体何が余計なことなんだ……?」
いや、事実泣いていた。
解っていた。切嗣には。ラウラが一夏に見せた感情は憎悪と殺意だった。衛宮切嗣が警戒するほどの殺意、当初ラウラは一夏を殺すつもりだった。だって、一夏はラウラがたった一人、家族と呼べるような存在に泥をぬったのだから。でも泥を塗らなければ、恐らく二人は出会えなかっただろう。そんな矛盾が彼女を苦しめた。……苦しんだからこそ、最後の手段、殺人に考えが及んだ。苦しんで、苦しんで、苦しんで、果てに行き着いた唯一の逃避にして生きるための手段。しかし、衛宮切嗣は諭す。
「織斑一夏を殺しても誰も救われない」
解っていた。
言われなくても理解していた。こんな事をしても誰も喜ばないと。千冬はもとより、彼の周りにいる人を悲しみの底に落とすだけだと。それ以前に、ラウラ自身が救われることは決してないと。生きることは出来ても、誰も救われない究極にして最悪な逃避。
それでも構わなかった。この鬱蒼とした心が晴れるなら、光を捨てる覚悟があった。
しかし……実際に殺そうとして気付いた。
私にとっての光は織斑千冬に他ならない。ならば、教官にとっての光は……
「やだよ……教官が泣くのは……やだよ……」
気付けば、武装を解除しその場に踞っていた。
光を得た人間だからこそ判る。それを失う恐怖を、悲しみを。
「……すまない。お前……いや、ラウラには余計な事なんかでは無かった」
「……!悟った風な口を叩くな!貴様に、わかるか!?絶望の中得られた光の暖かさが!あまつさえ奪われた者の気持ちが……!」
本音を言うなら、千冬の栄光に泥を塗った怨みは建前にすぎない。赦せないのは、たった一筋の光すら奪い取る男の存在。
「だから私は許せない。あの男を……!」
そこまで言って、喋り過ぎた事に気付いた。
「もう、私に関わるな」
それだけ言うとラウラはびしょびしょの制服を振り乱して、教室に続く階段を下っていった。
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ラウラが去った後の屋上で一人、切嗣は呟いた。
「いつまで隠れているつもりだ?」
すると、切嗣の後ろにある給水タンクの後ろからひょっこり人が出てきた。
「更識楯無か……」
「あら、私のこと知っていたんだ」
それは、青い髪に抜群のプロポーションを誇る女性だった。美少女よりも美女という形容詞のほうがしっくりくるだろう。そんな女性が未だに水を吐き出すタンクの前にやってきた。当然、水
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