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王道を走れば:幻想にて
第四章、その7の1:いろんな準備
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そっ、その人はとても寝汗をかくタイプだったのではないですかッ?」
「かもしれませんね。何せ亡霊のような昂ぶった嬌声を漏らすくらいなのですから、とても激しく、濡れてしまったのでしょうね」

 きらりとした悪戯っ気な瞳を向けられて、アリッサは隠しようが無いまでにたじろいだ。赤らむやら青褪めるやら世話しなく顔色を変えつつも、表情は強張ったままというのがソ=ギィの洒脱な心を燻るのである。

「シーツ・・・とても臭っていました。青臭い臭いです」

 その心は母子に共通するものだったらしい。アリッサはチャイ=ギィの直球な突っ込みに固まり、口の中が乾いていくのを感じた。他人の館で外交の友誼を深めるよりも先に、男女の誼を深めてしまったのだ。人として問題が有り過ぎると、内省の念が強まっていく。

「・・・アリッサ様。もしかしたらーーー」
「頼むっ、ソ=ギィ殿!こ、これは誰にも漏らさないでくれっ!!一昨日のあれは、その・・・一時の気分で自分を見失っていたというか・・・感情が溢れたというか・・・兎に角バレたら拙いのだっ!!口外しないでいただきたい!!」
「まぁ。まるで自らがその亡霊であるかのような口振りですわね。それに、自らが声を出したとお認めになるのなら、中でなにをしておられのたか、是非お教えいただきたいですわ。館内に変な噂が広まっては拙いですからね」
「なっっ!?そ、そんなの・・・」

 アリッサはそこで気付く。ソ=ギィの瞳には怒りが孕んでいるのだと。王国から来た使節が仲間内で、よりによって自らの家で行為に励んでいたと知れば心穏やかで居られる筈が無いのである。追求の言葉が、まるで牢獄の処刑人の如く冷酷にアリッサを追い詰めていく。

「何を躊躇うのですか?まさか、口外できぬほどの事をなさっていたので?よもや犯罪ともいうべき事をーーー」
「断じてそれはない!で、でも・・・口に出すのだけは、どうかっ・・・!」
「駄目ですわ。これも領内の秩序維持のためなのです。さぁ、お教え下さいませ」
「え・・・・・・ぅぅ・・・その、私は・・・」

 視線を落として上目遣いで見やっても、同姓であり年長者であるソ=ギィの瞳は揺ぎ無い。傍に控える慧卓を見遣る勇気も出て来ないまま、彼女は何度か口をまごまごとさせる。

「・・・その、私と、ケイタク殿で・・・」
「ええ」

 漸く窮しながら出てきた言葉に、辛抱強くソ=ギィは頷いた。アリッサは紡ぎだそうとする言葉から想起される光景を思い起こし、再び身体がかっと熱くなるのを感じる。羞恥と屈辱に身を震わし、地面に視線が釘付けになってしまう。しかしそのまま黙っていても、非礼であるだけでなく情けない。協力を勝取っておいて醜態を晒すの愚は何としてでも避けたい。アリッサは赤くなった顔を背けながら、小さく呟いた。


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