アインクラッド 前編
希望を繋いだ勝利
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いぶりだったのだ。
しかし、そのことを問いただしている時間はなかった。正面のイルファングは怒りの雄叫びを上げ、今にもプレイヤーに襲い掛かろうとしている。マサキは無駄な思考を脳内から追い出すと、改めてボスを一瞥し、走り出した。
一気にステータスの許す最高速度まで達したマサキは、視線の先のイルファングに、自らが持つ集中力の全てを向けた。視界が狭まり、時間の流れが緩みだす。が、それにもマサキは気付かない。それほど、彼はボスの一挙手一投足に集中しているのだ。
やがてボスが迎撃のソードスキルを発動させるべく、野太刀を振りかぶる。そしてそれを確認した瞬間、マサキの脳がさらに回転速度を引き上げた。
視覚よりデータとして得られたイルファングの筋肉の収縮具合が、マサキの脳内でいくつもの方程式に置き換わり、それらの全てに一瞬で解が与えられていく。与えられた解は再び筋肉の形に組み合わさり、イルファングの数瞬後の腕の位置を導き出した。
これが、先ほどマサキが言った“試してみたいこと”。即ち、人体工学に基づき、筋肉の収縮具合から敵の繰り出す技を予測する、というものだった。
マサキは導かれたボスの攻撃予測に従い、手にしている柳葉刀を頭の上で地面と水平に構えた。数瞬後、その予測と寸分違わぬ位置を野太刀が通過し、マサキが構えた柳葉刀と激突した。だが、マサキは柳葉刀を握る右手に、力を込めていなかった。ボスの野太刀に差し込まれる形で、みるみる剣の位置が下がっていく。
だが、これもマサキの狙い通りだった。二つの刀が自らの額に当たる寸前、マサキは限界まで振り絞った力で自分の剣を押し上げる。筋力値はボスのほうが高いため、さらに強い力で刀が押し込まれるが、マサキは体を右にずらすと、生まれた反動を利用して身を捻りつつ飛び上がった。そのまま振り下ろされた刀に右手を突き、さらに空中で一回転してボスの上腕へ着地。硬直で動けないボスの体を駆け抜け、最大限に威力をブーストした《リーバー》で眼帯に覆われた右目を貫いた。イルファングのHPがさらに数ドット削れるが、それだけでは終わらない。一瞬遅れてトウマが、さらに続いてアスナがイルファングの両脇腹を抉り、止めとばかりにキリトが片手直剣で右肩口を切り裂く。
着地したマサキが聞いたのは、数秒前までイルファングだった青いガラス片が一気に四散した、破砕音だった。
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