アインクラッド 前編
希望を繋いだ勝利
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した。今そんなことを考えている暇はない。
マサキがちらりと後ろを覗くと、今まさに振り下ろされた野太刀を、キリトが弾いているところだった。彼がボスの攻撃を相殺するために放っている一撃は、他プレイヤーのそれよりも明らかに速く、重い。彼が十日間かけて習得したという《ソードスキルのブースト》なるシステム外スキルを最大限利用しているのだろう。その甲斐もあって、彼は何度も襲い来るボスの攻撃を、全て弾き返すことに成功している。
だが、マサキはそこに危機感を覚えた。たった一度のミスも許されないこの状況で、最大のブースト率を維持したまま正確に剣を振るうことは、脳にかなりの負担を掛けるはずだ。集中力はみるみるうちに削がれ、いつ終わるかも分からない攻撃は、彼の精神を着実に蝕んでいく。
これがマサキなら、その超人的な情報処理能力を以って、どれくらいブーストすれば相殺できるのかを正確に割り出し、余裕を持って防御に徹することが出来るだろう。しかし、マサキは《刀》スキルの技を知らない。そして、今のイルファングの攻撃速度では、モーションを見てからでは反応できない。故に、今ボスの攻撃を処理することが出来るのは、βテスト時の膨大な情報を所持しているキリト以外にいないのだ。
四人はゴールの見えない綱渡りを続け――、
ボスの攻撃が十五回目を数えたとき、綱から奈落へと転落した。
キリトがボスの繰り出した《幻月》の軌道を読み違え、下から跳ね上がった野太刀に切り裂かれたのだ。彼のHPゲージは三割以上も削られ、体は数メートル先まで飛ばされる。
そしてここで、マサキとアスナがボスの懐へ飛び込んだ。硬直中を狙った基本的な攻撃。しかし、それが今回は仇となった。
「マサキ、駄目だ!!」
トウマのいつになく緊迫した声に反応して上を見上げた時には、既に野太刀の刃が血色に染まっていた。
――確かあれは、ディアベルをリタイアに追い込んだ三連撃技……!
マサキが記憶領域から眼前の技を引っ張り出したコンマ数秒の間にも、真紅に染まった刃は二人の頭上に向かって落ちていく。マサキは降りかかってくる刃を睨んで舌打ちしつつ、被弾を覚悟した上で柳葉刀を振り上げ、防御に移行しようとする。野太い叫びと共に、二つの刃の間に緑の光をまとった両手斧が打ち込まれたのは、その時だった。
ボス部屋全体が爆発したかのような轟音と閃光が、それぞれマサキの目と耳を直撃し、不快な耳鳴りと眩暈を発生させる。
「くっ…………」
「マサキ! 大丈夫か!?」
「ああ、問題ない」
くぐもった声を上げながら、マサキは駆け寄って来たトウマに左手を振って答え、まだ定まりきっていない焦点を後方に向ける。そこにいたのはチョコレート色の魁偉な容貌と、それに似合った両手斧を握ったB隊リーダー、エギルだった
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