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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
希望を繋いだ勝利
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 ここで、キリトの中性的な顔がマサキの方を向く。マサキは何も言わず、ゆっくりと頷いた。それに対し、キリトは一瞬渋るような表情を見せたが、迷っている時間さえ今はないことに気が付いたのか、無言で体を回転させた。続いてマサキたち三人も体の向きを変え、足先を二十メートルほど先のイルファングへと向ける。そして、四人全員が同じ方向を向いたところで、一斉に走り出した。

(さて、どうしたものか……)

 走りながら、マサキは顔をしかめた。その横では、キリトも同じような表情を浮かべている。
 彼らの行く先は、攻撃を受けているC隊の怒号や悲鳴、絶叫で既に飽和していて、そこに「後方に退避」の命令が入り込む余地などない。つまり、必然的に彼らが最初に成すべきことは、その余地を作り出すことになる。そしてそのためには、彼らの叫びを打ち消すほどのインパクトを持った言動をする必要があるのだ。キリトのコミュニケーション能力ではあまりに期待薄だし、マサキにも、そこまでのことは咄嗟には思い浮かばない。
 マサキは走りながら脳をフル回転させるが、浮かんでこないアイディアにやきもきするばかり。仕方なく、ボスに痛烈な一撃を浴びせることによって間を作ろうと柳葉刀を構える。すると、突如現れた一筋の流星が、その間を運んできた。逆サイド、トウマを挟んで並走するアスナが、今まで顔を覆っていたフーデッドケープを邪魔そうに脱ぎ捨て、その美貌を明らかにしたのだ。

 そのあまりの美しさに、混乱の最中にいる者たちでさえ、息を、飛び出しそうだった絶叫を、呑み込んだ。そして生まれた沈黙は次第に広がり、ついには薄闇に包まれたボス部屋の全てを包み込む。

「……キリト、今だ」
「! 分かった!」

 部屋全体が静まり返った瞬間、マサキはキリトにささやいた。キリトははっと我を取り戻すと、大きく頷いた後に退避命令を出す。自分よりもキバオウ辺りに顔が知れていて、かつ今後ボスの攻撃から防御をするときに指示を出すことになるであろう彼の方が、命令役に向いているだろうというマサキの判断だったが、これが功を奏したようで、前線のC隊が後方へと走り出し、その中をマサキたち四人が逆流する。イルファングはC隊を追ってくるため、マサキたちとは正対する形になった。

「俺が防御を担当するから、三人で攻撃を頼む!」

 なおもボスに向かって足を動かしながら、キリトが短く説明した。残りの三人はそれぞれ頷くと、まず敏捷値に優れたアスナとマサキが、次いでトウマが鮮やかな剣閃を叩きつけ、イルファングの両わき腹を深々と抉る。連動してボスのHPが削られるが、流石に雑魚とは量が違う。削り取れたのは数ドットほどだ。
 その予想済みではあったがあまりにも小さいダメージに、マサキは一度顔をしかめるが、すぐに頭を振って邪魔な思考を追い出
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