第四幕その一
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だから・・・・・・雨よ伝えて。私の想いを。塔の中、冷たい監獄の中にいるあの人に。お願いだから」
雨にそう囁いた。
「悲しみの吐息を。囚われたあの人の心を慰めて。この私の想いをあの人のもとに届けて。愛の思い出と夢を」
さらに言葉を続けた。
「けれど・・・・・・私のこの悩みは漏らしては駄目よ、決して。お願いだから」
ここで宮殿の中から声が聴こえてきた。
「あれは」
レオノーラはそれを聴き顔を上げた。マンリーコの声であった。
「あの人の声だわ」
「聖なる神よ、哀れなる魂を救い給え」
高く気品があり、それでいて野性味のある声であった。
「既に帰らぬ旅に着こうとする魂に慈悲を与え給え」
それはジプシーの歌であった。昔から彼等の間で歌われている死者を弔う歌であった。
「何と悲しい曲」
レオノーラはそれを聞いて思わず呟いた。
「あの歌はまるでレクイエムの様。いえ、きっとそうに違いないわ」
彼女にもそれはよくわかった。
「聴いていると身が凍りつきそう。まるで氷の様に凍てついた炎によって」
彼女はマンリーコの曲を聴き震えていた。
「身体が震える。胸の鼓動が抑えられなくなってきたわ」
恐怖のせいであろうか。それでも彼女は上を見上げた。そこにマンリーコがいる筈なのである。
「死は常に訪れるもの。だがそれを待ち望む者にとってその歩みは遅いもの」
彼の歌は続いていた。
「我が愛しき人よ」
「私のこと!?」
それを聞いて思わず呟いた。
「貴女に永遠の別れを告げよう。そしてまた何時の日か会おう」
「何と恐ろしい言葉」
それを聞いてさらに凍りついた。
「死神がその漆黒の翼を広げ舞い降りてきたようだわ。いえ、もう既にこの宮殿に来ているのかも」
彼女には夜の闇こそそれであるように見えていた。
「あの方の御命を奪う為に。今この宮殿に潜んでいるのかも」
「だが私は後悔なぞはしない」
またマンリーコの歌声が聴こえてきた。
「貴女への愛を抱いて死ぬのだから。何故悔やむことがあろうか」
「またあの人の歌が」
「さらば、我が愛。我が愛しき人」
「忘れるなんて」
レオノーラはそれを聴いて首を横に振った。
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