Mission
Mission7 ディケ
(5) ハ・ミル村 B~キジル海瀑(分史)@
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スには重要じゃない事柄。でしょう?」
皮肉ではなく本気でそう言っているらしい。
ユリウスはもたれた岩から離れて、蒼い少女の前に立った。
「重要じゃないわけあるか。骸殻を使えば使うほど時歪の因子化は進む。短期間でそれだけの分史を破壊したんじゃ、症状が出始めてるんじゃないのか」
ユティは本当に不思議そうに首を傾げた。
「どうしてワタシの具合、気にするの? ユリウスにとってのワタシは、なんでもない人間なのに」
言われて、ユリウスは初めて考えた。
なんでもない――「何」でもない。
ユースティア・レイシィはユリウスにとって何者でもない存在だ。契約はあってもそれは書面も金銭もない口約束。赤の他人。情けも親しみも愛も向けてはいない相手。そんな相手を心配するなど無駄ではないか――ユティはそれを不思議がっている。
「まあ協力者の耐久限度は知っておかないと不安、よね。今のところ体表には兆候はない。内臓のほうはどうか知らないけれど。表に出なければまだ進行段階は低レベルなのよね」
「あ、ああ。誰から習ったか知らないが、その通りだ」
逆にユリウスの時歪の因子化は左腕を覆い尽くすレベルまで来た。分史破壊をしてきた年数を考えれば、よくぞここまで保ったと逆に褒めてやりたい。――いや、そうではなく。
「君は自分の体が造り替えられていくのが恐ろしくないのか?」
時歪の因子化するとは、すなわち無機物になるということを意味する。魂の循環に還ることも、生まれ変わることもできないまま、「世界」の偽造品を廻すただの歯車として存在し続けなければならないのに。
「……こわがってられない。ユティにはやらなきゃいけないこと、あるから」
カメラの紐を握りしめる手も、細い肩も、はっきりと分かるほど震えているのに。
声だけは鋭く、一途に。まなざしは揺るぎなく、頑なに。
「君は……」
「ワタシ?」
「何故そこまでカナンの地に拘るんだ。願いは、ないんだろう?」
尋ねてもいつもはぐらかされた。今までのユティの言動から、彼女は本当に無欲だとも分かっていた。だからユリウスも知ろうとする努力を途中で放棄していた。
(それを今持ち出したのは、この子の心に踏み込みたいと思ったから? 欲望でも切望でもないなら、この子は何をこの『審判』に賭しているのか)
「他人に叶えてほしい願いなんて、ない。ワタシは、ワタシが産まれた理由がそうだったから――」
最後まで聞けなかった。
「きゃああああーーーーっっ!!!!」
向こう側の海岸で轟いた幼い悲鳴が、答えを遮った。
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