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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission7 ディケ
(5) ハ・ミル村 B~キジル海瀑(分史)@
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ーが声をかけてもお構いなしだ。ルドガーはため息をついた。

「今さらだけど、あんな小さい子を連れ歩くあなたの気がしれないわね」
「ぐ」

 エルがルドガーの骸殻変身に不可欠だから、などと正直にいえば、往路の荷馬車でのように殴られかねない。

「……約束したんだ。一緒に『カナンの地』に行くって」
「ふーん」
「言っちゃ悪いが、エルは一人じゃ『道標』集めなんてできないし、俺はエルが後ろにいると思うから戦える。必要なんだ、お互い」
「人間って、守るものがあるほうが強いって言うものね」

 ミュゼがルドガーとミラを上から覗き込んできた。

「ルドガーにとっては、エルなんでしょう?」
「ああ」

 力を借りているという以上に、なりゆきだからという以上に、エルは特別な存在だ。

「そう思うなら、もっとエルに構ってやりなさいよ。父親と別れて、家がどこかも分からない女の子なんて、いくら甘やかしてもやり過ぎなんてことないんだから」
「結構、構ってやってるつもりなんだけど」
「エルがカラハ・シャールに行くの、何でだと思う?」
「…………」
「ふふ。その子の言う通りね。誰だって、ひとりぼっちはイヤだものね」

 酒瓶の中のシャルトリューズのように、ミュゼの瞳は妖しく、されども優しく揺らめいていた。

「そう、だよな」

 ルドガーは砂浜で遊ぶエルのもとへと歩き出す。性別も世代も違う自分だが、せめて彼女の話し相手にくらいはなってやれると信じて。




 同じ頃、ユリウスもまたキジル海瀑にいた。
 あちらからすると岩の洞穴を抜けた先で死角になった海岸の、高い岩の陰。ニアミス覚悟の至近距離であると同時に、久しく聞けなかった弟の声を聞ける位置でもある。

(元気そうでよかった)

 少女と戯れるルドガーの声を聴いていると、ささくれていた心が潤っていく。

「お待たせ」

 向こう側の海岸に集中させていた聴力を戻す。そこには案の定、ユティがいた。足音を殺し気配を消したのだとしても、ここまで近づかれて気づかなかったのは不覚だ。

「よく俺がここにいると分かったな」
「分かるよ。どこにいても、アナタなら」

 蒼眸がユリウスを射抜く。彼女がたまに見せる、このまっすぐすぎる目が苦手だ。

「まずは、はい。いつもの写真付きルドガー生活報告書。――ニ・アケリアからこっち、ルドガーと6、ワタシ独りでは12、分史世界に潜った。『道標』は見つからなかった。今あるのはアナタが奪ったそれと、『ロンダウの虚塵』、二つ。これは前にも話した通り」
「前の報告より増えてないか」
「増えてない。ルドガーにはなるべく分史世界に行かせないようにしてる」
「君の分史破壊数だ」
「前の連絡から3増えたけど、それはユリウ
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