暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
13話「月下」
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「……」

「まだ若い女の子が、1人で4年も一人旅だ? 却下だよ却下。まだ20にもなってない少女が、ひとりでいろんなものを背負うな。大人を頼れ」

 今日何度目だろうか。潤んだ瞳が零れ落ちそうなまでに目を真ん丸くしたユーゼリアが、無意識に握った拳に力を込めた。

「俺のことを心配してくれてありがとう。だがな、俺の意志は固いぜ。ただ……」

 困惑気味にユーゼリアがアシュレイの目を見つめる。

「まあ今日会ったばかりの素性も知れない男だ。信用ならないのもまた事実。嫌なら、まあ年長者の戯言ざれごとと思ってくれ」

「そんなことッ」

「まあ本人の前じゃあ言えないわな。お前の性格じゃ」

「…ッ」

 言葉に詰まったユーゼリアに、それでいいと銀色の頭をぽんぽんと叩く。

 立ち上がり、大きく伸びをすると、言った。

「まあ、一晩考えてくれ。今じゃまだ混乱してるからな。とりあえず、今は宿に行こう」

「……ええ」

 歩き出したアシュレイの後ろから、ユーゼリアがゆっくりとその背を追う。

 そのまま気分よく鼻歌なんぞ歌いながら頭に腕を組み、ユーゼリアの5歩先を彼女に合わせたスピードで歩いていたアシュレイだが、つと足を止めた。後頭部に手を乗せたまま後ろを振り向く。

「そういやユリィさん。宿ってどこ?」

 それに一瞬きょとんとしたユーゼリアも、次の瞬間には盛大に吹き出していた。

「ああもう……ほんと、締まらないわ、アッシュ。せっかくあんなシリアスな雰囲気だったのに」

「光栄だね」

 ツボに入ったのか、腹を抱えてうずくまるユーゼリアが落ち着くまでのあいだ、アシュレイはひとり鼻歌を口ずさんでいた。
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