弐ノ巻
かくとだに
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したように、僕はただ瑠螺蔚さんの為に、こんな愚かなまねをしようとしている。
どうして俊成殿や逃げ遅れた人を助けるのが瑠螺蔚さんの為なのか、うまく説明ができないけれど、僕の中でいろんな感情が鬩ぎ合って、その中でも一番根本的で強い気持ちがそれだった。
「止めとォけ」
急に目の前に大きな掌が突き出された。
「尉高、義兄上」
「気持ちはわかるが、諦めェろ。中にいる奴は、もう生きては」
ものすごい轟音がその声を掻き消した。
僕はその瞬間を目の前で見た。ふっ、と屋敷が撓み、空気が止まったかのように酷くゆっくりと地面に落ち、そこから雪崩をうったように前田家は潰れた。拉げ潰れて瓦礫となった中に堂々と仁王立つ太い柱が轟々と燃えている。
僕は立ち尽くすしかなかった。
こうして、結局のところ僕は何もできなかったのだ。
「瑠螺蔚さま?」
由良の声が僕を現実に引き戻した。
「あ、ごめん、なんか、あたし、ぼーっとしちゃって…」
「…瑠螺蔚さま、高彬兄上様に呼ばれていたのを私思い出しましたわ。失礼いたします。くれぐれもご自愛くださいませ」
由良は瑠螺蔚さんに気を遣ってか部屋を出て行った。勿論ずっとここにいた僕は由良を呼んでなどいない。
「あに、うえ、さま…」
僕も部屋に戻ろうと腰をあげかけた時にぽつりとくぐもった声が聞こえた。僕は胸を突かれた。
それは瑠螺蔚さん本人もそう言っていると意識していないだろうというほどの小さな呟きだった。由良の言葉を反芻しただけなのか、それとも俊成殿のことを思い出しているのか僕には判断がつかなかった。
瑠螺蔚さんと、俊成殿は昔から仲が良い兄妹だった。外見も似ていないし、傍目には恋人同士にも映っただろう。ずっと瑠螺蔚さんの背中を追いかけていた僕はたまにそれを羨ましくも、妬ましくも思ったほどだった。
「ねぇ瑠螺蔚さん。今日、一緒に遊ぼうよ」と誘っても、「いやぁよ。あたしは兄様と遊ぶんだもの」と断られるのが常だった。まぁなんだかんだで優しい瑠螺蔚さんは結局僕と一緒に遊んでくれるのだけれど。
断られるたびに僕は、なんで兄の吉之助がいいのだろう、いったい僕とどこが違うのだろう、どうして僕じゃ駄目なんだろう、と飽きずに思っていた。
けれど、瑠螺蔚さんのことを抜きにすれ
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