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皇帝ティートの慈悲
第一幕その六
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第一幕その六

「私はそこまでの者ではありませぬ」
「謙遜なのか?」
「いえ、違います」
 それは否定した。
「私はそれを受ける資格がないのです」
「そんなことはない」
 彼はすぐにそれを否定した。
「君こそは私の」
「ですが陛下」
「いや、言おう」
 しかし彼はあえて言うのであった。その誇りと共に語りだした。
「この帝位には何があるか?至高の冠のほかには苦悩と忍従があるだけだ」
 それがまさに皇帝であるというのだ。
「私にあるのはそれだけだ。その僅かな幸せまでなくしたならばどうなる?虐げられてきた者達、友人達を助け功や徳のある者達に幸福を授ける喜びまで奪われては」
「それは」
「そうだろう?せめてそれだけは私に与えてくれ」
 彼は友人達に語るのだった。
「それだけは。頼む」
「はい。それでは」
 セストは止むを得なく頷いたといった様子でそれに頷くしかなかった。
「陛下の思し召しのままに」
「頼む。それだけはな」
「はい」
「ではここを去ろう」
 セストに対して声をかけた。
「また別の為すべきことがある。だからこそな」
「畏まりました。それでは」
「アンニオ」
 ティートは去る間際に彼にも声をかけた。
「君も私達と共に」
「いえ、私は」
 しかし彼はティートのこの申し出は断るのだった。厳かに頭を垂れ、己の心を隠して応えていた。
「ここで少しやるべきことがありますから」
「やるべきことが」
「はい。ですから」
 彼は言うのであった。
「是非セストと共にお向かい下さい。是非」
「そうか。やるべきことがあるのなら仕方がないな」
「では陛下」
 アンニオの心を知っているセストがそっとティートに声をかけた。ティートに気付かれないようにして。
「我々だけで行きましょう」
「そうだな。無理強いもよくない」
「その通りです。ですから」
「うむ。それではまたな」
「はい」
 こうしてティートはセストを連れて神殿の前を後にした。神殿の前の厳かな柱が立ち並ぶ前にアンニオは一人たたずんでいた。その中で呟くのだった。
「仕方ない」
 まずはこうだった。
「甘い思いを断ち切るのも運命だ。私は私の恋を諦めよう」
 顔を俯けさせて言う。何とか己の心を殺そうとしていた。
「愛情を尊敬に変えて・・・・・・むっ!?」
 何とか己を殺そうとしていたその時だった。淡い赤の服を着た黄金色の髪のまだ少女の幼さが残る金髪の美しい女が彼のところに来たのだった。
「セルヴィリア」
 アンニオはその美女の名を呟いた。
「どうして彼女が。それにこんなに美しく」
「アンニオ」
 その美女セルヴィリアは彼のところに来て優しい声をかけてきた。
「ここにいらしたのね」
「君・・・・・・いや貴女は」

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