第1話『狩人』
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んだね?」
「もちろん、だからベルメールさんに言ってるんだ」
「とりあえず、なんで?」
目尻の涙を拭いて、未だに苦しそうな姿に、ハントは少しばかり恥ずかしそうに答える。
「もっと大きい獲物を狩れるようになりたいから」
「だから……なんで?」
「……」
「ん?」
言い淀み、困ったようにしているハントを、彼女はまた急かす。
「ベルメールさんもみかんばっか食べないで済むから」
瞬間、緩みきっていたベルメールの頬が引き締まった。
「ば、馬鹿ね、ダイエットしてんのよ! アンタみかんの美容パワーをなめちゃいかんよ。私が30にしてこの艶やかな肌を保ってんのはみかんのおかげ」
「……男もいないのに?」
「うっさい! そこは黙って納得しとけ!」
ハントが渋々黙り込む。
ベルメールも少しばかり困ったように家の天井を見つめて、おずおずと言葉を発した。
「そんなに気を遣わなくてもいいじゃない? 私はあんたたちが楽しく生きていけるならそれでいいと思ってる。だってあんたたちは――」
ハントをジッと見つめて「私の――」
「――いやだ」
ハントがベルメールの言葉を遮った。そこにあったのは確かな拒絶。絶対に認めてないという子供なりの意地。それをベルメールは敏感に感じ取ってしまった。
「……いや?」
本当は聞くべきではないとわかっていても、悲しそうに尋ねる。いや、ベルメールにとってそれは最も大事なことで。尋ねずにはいられなかった。
「いやだ!」
断固としてハントは言う。
かたくなまでのその態度にベルメールは諦めたようにに目を閉じて「そう」と静かに呟いた。
彼らの母として、責任をもって、そう思って彼らを育ててきたが、やはり母にはなれなかった。もちろんわかっていた。自身がそういうつもりだ接していても子供たちがそんな簡単に認めてくれはしないだろうということくらいは。
だが、だからこそ本当の母親になったつもりで接してきたが、少なくともハントにとっては他人の行いでしかなく、ただ自分を養う人間でしかなかった。
簡単じゃないことなどわかっていた、わかっていたのに。
「っ」
ベルメールは自身がどうしようもなく傷ついているということに気付いた。
彼女は好きだったのだ。
本を盗んででも夢を語るナミが。
大人っぽい言動と共に文句の一つも言わずにみかん畑を手伝ってくれるノジコが。
動物を狩っては自慢げに食卓に並べようとしてくれるハントが。
それぞれがいいところをもっていて、愛おしかった。
少し己惚れていた。
もしかしたら自分は彼らの母になれているんじゃないか、と。
それを突きつけられたからといって距離をおこうとか、彼らを放り出そうとか
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