暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
12話「亡国の王女」
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る。そして、一般に魔道具は、仕掛けが面倒で値が張る代わりに効果は大きい。……そう、奴らが使っていた結界装置のように)

 あの暗殺者たちが自慢げに話していた防音・不可侵の結界のことである。まあ、アシュレイにいとも簡単にくぐり抜けられた時点で、すべての労力は泡と化したのだが。

 アシュレイは、頭の中で次々とパズルのピースがはまっていくのを感じた。

(使い方を代々お受けにしか伝えない、特殊な魔道具……。それをユリィが持っているとしたら。いや、聞いた限りだとそんな余裕はなかったな。ならば、皇国が物は持っている、が、使い方を知らないというのが自然な流れだ。一大国家が持つ魔道具だ、手順と違う起動操作をすると自爆なんかするかもしれない。王家の生き残りはユリィだけ…だから生け捕りにしなければ意味がなかった。……これかな)

 我ながらこれ以上しっくりくる理由が思いつかない。

 ならば……この仮説が正しいとするならばだ。ユーゼリアが自身の追われる理由をアシュレイにはなさないのは、

(迷惑を、かけまいとしているのかな。これは)

 思わず笑ってしまう。

 今更だ。

 どうせ、あの時追っ手をこれでもかというほど威嚇したのだから、今更他人面できるはずもない。それはもう遣い魔とか言ってる場合じゃないだろう。一国が相手なのだ。

 そもそも、若い女性が一人旅なんてしていることを知った時点で、正直アシュレイは放っておけないと思っていた。不埒な理由ではない。これは単に、「女は守らなくては」というアシュレイの――否、もと主人の魔人ノーアに植えつけられた持論である。

 閑話休題。

 とにかく、ユーゼリアだって馬鹿ではない。既にアシュレイがこの件に勝手に片足をつっこんだと分かっているのにも関わらず、なお気を使っているのは、ユーゼリアに気に入られたと思って良いのだろうか。

 ひとりでに笑顔になったのをいぶかしむように、ユーゼリアがアシュレイの顔を覗き込んだ。

「ま、おかげでこうして今旅を続けていられるわけよ。……何笑ってるの?」

「ああ、すまない、不謹慎だったな……。…なあ、ユリィ」

「なぁに?」

「……腹を割って、話し合おうぜ」

 笑みを浮かべていた表情から一転、真剣な眼差しになったアシュレイに気圧されたユーゼリアは、無意識に唾を嚥下した。咄嗟に笑みを取り繕う。

「なんのことかしら。これ以上過去の傷を抉るの? ひどいわね」

 普段と同じ美しい顔だが、アシュレイは意味深な笑みを浮かべるだけだった。

「ユリィがまだ過去を引きずるような、そんな弱い女じゃないってことぐらいは、俺でもわかる」

 立ち上がると、手を差し出した。


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