第二幕その一
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っと彼に囁いてきた。
「安心していいわ。あの人はあんたの顔は見ていないから」
「そうか。じゃあ明日の朝だな」
「ええ、夜明け前に」
二人はこっそりと囁き合う。
「待っているからな」
「朝になればあたしは自由に」
「俺とずっと一緒だ」
「わかったわ」
二人はそれだけ言い合うと別れた。客席が満員になった時にトニオがその手に持つドラムを大きく叩いた。派手な音がテントとその周りを支配した。
「さあ時間ですよ」
「やっとか」
「待ちくたびれたぞ、おい」
客達はテントの席で口々に言う。
「パリアッチョの復讐、もうすぐはじまります」
舞台裏からカニオの声がした。
「色男とイチャイチャする女房、その女房にパリアッチョはどんな復讐をするのか。是非お楽しみ下さい」
今度はペッペの声がした。そして調子外れたラッパの音と共に舞台が開いた。
舞台は貧弱な書き割りであった。両側にドアがあり、奥に窓が着いた小さな部屋が現わされている。舞台の中央にはテーブルが一つに葦で作られた粗末な椅子が二つ置かれている。その中で道化師の服に身を包んだネッダが心配な顔でウロウロと歩き回っていた。
「あの人、まだ来ないのかしら」
彼女は役になりきっていた。今はネッダからコロンビーナになっている。
「いつも遅いんだから。逢引の約束をした時は」
それが彼女の心配の原因であった。そう呟くと遠くからギターの響きが聴こえてきた。
「コロンビーナ」
それはペッペの声であった。舞台の裏から聴こえて来る。
「今からそっちに向かうよ」
「やっとね、アルレッキーノ」
ペッペ、いやコロンビーナはそれを聞いて一気に晴れやかな顔になった。
「今からそっちに行くよ。そしてその可愛い顔と唇に接吻を」
ペッペもまたアルレッキーノになりきっていた。だがネッダのそれ程ではなかった。ネッダは完全にその役になりきってしまっていた。
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