第一幕その二
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える。だが顔は不平に満ちたものであった。
「全く」
「どうしたんです、急に」
「何でもありませんよ」
彼はそう言いながら女の方へ行く。
「ほら、ネッダ」
そして彼女の名を呼んで手を貸す。
「降りな」
「はいよ」
女は名前を呼ばれてそれに応じる。そしてカニオの手を借りて馬車から降りた。
「相変わらず奇麗な奥さんだね」
「こりゃどうも」
カニオはそれに応えてにこりと笑う。そして村人達の方に戻ってきた。
「結婚してもう何年かな」
「あいつが子供の頃に拾ったのが十年以上前で結婚して五年ですか」
「もうそんなになるのか」
「ええ。結構経ちましたね」
「それでも相変わらずお熱みたいですな」
「まあそれは」
そう言われて照れ臭そうに笑う。
「小さい頃からずっと可愛がってきましたしね」
「愛情を込めてね」
「本当にね。今でも結婚出来たのが夢みたいですよ」
語る彼の顔は温かいものであった。本当にネッダを愛していることがわかる。
「ずっと流しの一座にいて」
「うん」
「このまま終わるのかなって思っていたらこの歳で女房を持ててね。有り難いことです」
「あんたも苦労してきているからね」
「ええ」
カニオは昔を思い目を細めたり、悲しい顔になったりした。
「ずっとね。苦労してきましたよ」
「それでもここまでこれたんだ」
「真面目にやってきたおかげで。神様に感謝しなくちゃね」
「座長」
先程のトニオとは別の一座の者が彼に声をかけてきた。若くてひょろ長い黄色の髪の男である。
「何だ、ペッペ」
「もう荷物はあらかた降ろしましたよ」
「そうかい、御苦労さん」
彼に優しい言葉を送る。
「じゃあいい頃合だね」
「どうだい、あっちで一杯」
「悪くないですね」
村人達の誘いに目を細める。
「ペッペ、どうだい?」
「じゃあ御一緒に」
ペッペはカニオの言葉に頷いた。その横ではトニオがムスッとして道具をいじっている。
「トニオ、御前も来るか」
「俺はいいです」
だが彼はカニオの誘いを断った。
「驢馬の手入れでもします」
「そうか」
「座長さん、気をつけなよ」
ここで村人の一人がカニオに悪戯っぽく笑って囁いてきた。
「あいつ、あんたのかみさん狙ってるよ」
「へえ」
彼はそれを聞いてにっと笑ったが目は真剣であった。よく見れば笑っているのは作りであり不快さを感じているのがわかった。
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