第一幕その一
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「早くしろよ」
その馬車を名残惜しそうに見ていた。だが彼は行かなければならなかった。彼がその場から姿を消すと馬車は村の入り口まで来た。
その馬車は驢馬に曳かれていた。そしてその手綱は小柄な若い女に握られていた。
見ればジプシーか軽業師が着る様な衣装を着ている。顔は化粧をしていないが瑞々しい肌と大きな栗色の目を持っており、唇は赤く小さい。そして髪は縮れた赤茶色でそれが彼女の美しさを引き立てていた。その美しさは若く、健康的なものであり小柄な身体によく合っていた。
その彼女が手綱を握る馬車が村に入る。すると子供達が声をあげた。
「いらっしゃい!」
「今日は何をしてくれるの!」
「それははじまってからのお楽しみよ」
彼女は子供達にそう言った。大人達もやって来た。
「けれど何をするのかは知りたいよな」
「ああ。何をするんだろうな」
「よかったら教えてくれないか」
「だからそれは」
彼女は答えに窮していた。だがここで馬車の中から太鼓を叩く音が大きく鳴り響いてきた。
「うわっ!」
皆突然聞こえてきたその音に思わず黙ってしまった。見れば馬車の後ろに大きな、人間の身体の半分程もある大きな太鼓と撥を持つ初老にさしかかろうという男がいた。
黒い髪に黒い目、そして突き出た腹を持っている。顔は愛嬌のある人なつっこい顔だがその目の光は鋭かった。彼は太鼓を叩いた後でニヤリと笑っていた。
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