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ホフマン物語
第二幕その三
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「いえ」
「ニクラウス君も来てくれたのか。これはいい」
「そして私も」
「・・・・・・あんたものか」
 スパランツェーニはコッペリウスの顔を見てあからさまに嫌な顔をした。
「一体何をしに来たんだ」
「いや、何」
「何の用だ、一体」
「貴方に祝福を届けに参りました」
 恭しく一礼して述べる。
「私はあんたから今までそんなものを貰ったことはないが」
「それでもです。お金という名の祝福を」
「オランピアなら会わせんぞ」
「まあまあ」
「あれはわしの娘ということになっているからな」
 思えば変わった言葉であるがこの時ホフマンはそれには気付いていなかった。ニクラウスもそれは同じであった。ただぼんやりと二人のやり取りを聞いていただけであった。
「違うか」
「まあ確かにそうですが」
「だからわしの方は用事はない。これでいいか」
「いやいや」
「だが、わしも鬼ではない」
 彼はこう言ってコッペリウスの耳に自分の顔を近づけさせてきた。
「話があるのだが」
「はい」
「あれの目のことでな」
「目、ですか」
 コッペリウスはそれを聞いてニヤリと笑った。
「そう、目だ。実は最近調子が悪いようなのだ」
「それはそれは」
「緑の目はあるか」
 次に問われたのは目についてであった。
「あれば」
「わしは御前に祝福をやれる」
「幾ら程」
「五〇〇デュカだが」
 金額が提示されると顔が変わった。
「有り難い祝福です。ですが保証人は」
「会社だが。どうだ」
「個人よりは信用がおけそうですな。そしてその会社は」
「エリアスだ。ユダヤ人が経営している」
「ユダヤ人が」
 それを聞いたコッペリウスの顔色が変わった。
「用心しておいた方がいいやも知れぬな。あの連中は下手をすれば我等よりも手強い」
 この時代もユダヤ人は欧州においては商業、とりわけ金融業に従事することが多かった。手強い商人として小説や戯曲の題材にもなっている。
「どうじゃ」
「考えさせて下さい」
 彼は考える顔でこう返した。
「まずは詳しいお話を」
「うむ」
「何か色々と話をしているみたいだな」
「そのようだね」
 ニクラウスはホフマンにワインを一本手渡しながらこう述べた。
「取引みたいだけれど」
「それもすぐわかるよ」
 彼はこう答えた。
「すぐにね」
「まあ僕には関係ないか」
 だが関係あった。スパランツェーニはホフマンをまるでたらし込む様な嫌らしい笑みを浮かべて見た後でコッペリウスに囁いた。
「これでどうじゃ」
「また悪いことを」
 そう応えるコッペリウスも邪悪な笑みを浮かべていた。
「何、世の中とはそういうものじゃ」
 彼はこう言ってうそぶく。
「騙される方が悪いのじゃ。違うか」
「確かに」

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