猟犬のお巡りさん(その2)
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う大人なんだ。テメエの命以外に守るもんが出来ちまったら大人だろうよ。すまんな、康一。この調書はやるよ。バレたらまずいがこれぐらいは助けてやるぜ」
彼はそう言うと僕を交番から追い出した。でも僕は彼を責める事は出来ないだろう。こういうのは巻き込んだって駄目なんだ。自分の意志で戦ってくれないと駄目なんだ。そして、戦う事にはリスクがあるのだから断られるのも当然なんだ。
それにしても嫌な事を思い出してしまった。
とにかく、今回は僕一人で戦わなければならない。覚悟を決めよう。敵の姿は見えない。まずはこの調書をお嬢様に届けてみよう。その道中に何か起こるかも知れない。調書を折りたたんでポケットに突っ込んだ。
ここから杜王グランドホテルまで徒歩で一時間ほど。タクシーで向かってみるか。
丁度良く前方からタクシーが走ってきている。空車のランプが点灯している。よし。
手を上げて呼び止める。タクシーが停止して客席のドアが自動で開いた。乗ろうと足を踏み出した直後、何か重いものに僕は突き飛ばされた。
「ちょっと! 邪魔よ! さっさと退きなさいこのノロマ!」
「え? ……え?」
ふくよかな、いやよそう。太ったおばさんだった。買い物袋をコレでもかと両手に持ったおばさんが僕を突き飛ばしていた。しりもちをついた僕を横目におばさんはタクシーに乗る。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕が呼びとめたん――ですけど」
「うるっさいわね! 荷物見れば分かるでしょ! 重いのよ! 運転手さん、早く出してちょうだい」
バタン、とドアは閉められた。軽快なエンジン音を奏でてタクシーは発進。僕の見えない所まで行ってしまった。
「……え? え、えーー! なんだそれは! 僕が呼び止めたのに! も、文句を言う暇もなかった! なんて事だ、こんな目にあうなんて!」
こんな酷い経験をした事なんて今までないぞ? 一瞬で心を折られたような気分だ。
「――気を取り直そう。そうだ、電話で呼び出してどこかで待ち合わせるか。携帯……はっと。あ! 充電が切れてる! そんなバカな、今朝まで充電してたのに! きょ、今日はなんてついてないんだ、あんまりだ。トホホ……」
仕方がないので歩いて向かおう。でもタクシーを見かけたら今度こそ止める。
住宅の多い地域に差し掛かると人通りも増えてくる。そうだ、おばさんのせいで忘れていたけれど、スタンド使いに追われているかも知れないのだった。用心しなくてはならない。
人通りの多い道を避けて細い小道に入った。人気はない。住宅に挟まれている薄暗い道だ。ここなら多分、誰か来てもすぐ分かるだろう。
周囲の様子を伺いながら歩いていく。ふと、目が一点に向いた。住宅の窓が開いている。若い女性が服を着替
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