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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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から推測するに、どうやら彼らは駒城に忠誠を誓いつつも独自に手札を掻き集めている様だ。
 ――まぁ、陪臣が全て無邪気に主家を信望する筈もない、だがそうそう裏切る事もするまい、彼等が行動を起こすにしても事態が動いてからだ。
 自分の思考が鏡のように己の姿を映している事にきづき、自嘲の笑みを浮かべた。
 ――まぁいい。本来の目的はこの後訪れる二人の将校達だ。
予定表に記されている名前を見つめ、思考を分析家としてのそれに切り替える。
 ――新城直衛、北領では、次席指揮官として崩壊寸前だった大隊で指揮官としての経験が乏しい馬堂中佐を補佐し内地に戻った後は個人的にも親交が深い彼を差し置いてあの奏上で大芝居をうった。あの戦の前にも幾度か問題を起こした事や横紙破りを行っていることは知っている。度胸があるのかそれともそれ以上なのか、或いは只の戦争屋か――見極めるべきだろう。そしてもう一人は――
 もう一人の名を小見浮かべる前に扉を叩く音で草浪は現実に引き戻された。
「失礼いたします、課長。新城少佐殿が出頭いたしました」
 部長の個人副官が告げた言葉に背筋を緊張させる。
「御苦労、すぐに通すように」



同日 午後第二刻半 兵部省 陸軍局庁舎内
〈皇国〉近衛少佐 新城直衛


新城直衛は所在無く陸軍局の庁舎をぶらついていた。人務部人務第二課長である草浪中佐から近衛衆兵隊司令部への配属辞令を受け取り目的を果たし、窪岡少将に挨拶をしておけ、と義兄に言われていた事を思い出したのだが――何しろ、今まで軍監本部の高級参謀とは縁なぞなくどこにいるのかも分からなかった。
 ――さて、何処にいるのやら、誰かに尋ねる事が出来れば良いのだが。
 そう思い、周りを見渡すと将校が二人連れ立って新城の横を通り過ぎた。

「少し宜しいでしょうか?」
 振り向いた二人の顔は新城が古くから知っている顔だった。
旧友と言って差し支えが無いだろう馬堂豊久と新城直衛が私的に抹殺すべきと決意している人間の一人である佐脇俊兼だ。

「何ですか?おや、新城少佐、健勝そうで何よりだ。」
豊久は一瞬、しまった、と言いたげに口を引きつらせたが
すぐにそれを笑みで覆い隠しながら敬礼し、佐脇俊兼大尉(・・)は屈辱の色を隠さずに同年の衆民少佐へと敬礼した。
「これはお懐かしい、少佐殿」


同日 午後二刻七尺 兵部省 陸軍局 二階廊下
〈皇国〉陸軍中佐 馬堂豊久



――さて、この場を如何におさめるべきか
 馬堂豊久中佐は眼前で張りつめた空気を作り出している少佐と大尉――駒城家育預である新城直衛少佐と駒城家重臣団の佐脇家長男佐脇俊兼大尉を見てうんざりと肩を落とした。
 この二人はあらゆる意味で対極的な存在である。
 ――俊兼さんはやや融通が利かないが
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