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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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だろうか?


同日 午後第一刻 兵部省 陸軍局 軍務部 文書課
軍監本部戦務課附 大辺秀高〈皇国〉陸軍少佐


「――困ったものだよ、結局、大隊の補充はろくにされていないままだ。
引き抜きが結構な人数になりそうだし、後任の大隊長には苦労をかける事になりそうだな」
 予定よりも一週間早く軍務に復帰したが未だ待命の身である馬堂中佐が愚痴をこぼしている。 それでも、その表情が全く困っているように見えないのは父の教育故なのだろう。
「あの大隊も面倒な立場ですからな。誰を頭に据えるかで扱いも変わるでしょうから致し方ないかと」
そう云って答える大辺少佐も未だ戦務課に身を置いているが、窪岡課長によって、新編聯隊の運用研究といった名目で既に聯隊の迅速な戦力化を進めるべく準備を始めている。
「まぁそうなる事は分かっていた――立つ鳥跡を濁さず、といきたかったけれどな」
 豊久はそういって肩を竦めた。 
「そうなると中佐殿の後任の人事が気になりますね。士官達の補充もされていない、と言うのならば尚更に」

「それで戦力化が遅れるのならば本末転倒だ。手元に置いても切れない手札など意味がない」
 大辺の言葉に鼻を鳴らし、馬堂中佐は話題を転じた。
「あぁ、そうだ。 龍州軍の陣容はどうだ?」

「後方支援部隊の拡充と参謀の内定は滞りなく進んでいます。参謀陣は例によって玉虫色ですが、まぁ最前線で好き勝手は出来ないでしょう。それに集成軍の派遣も視野に入れて司令部の増強が行われています。可能ならば後備部隊も動員したいのですが予算の問題がありまして――そのためにこうして省と本部を行き来しているわけです」
 大辺が溜息をつくと、豊久も肩を竦めた組織が協力的でも予算の問題はついてまわる。
「そして我らの総務課理事官閣下も苦労なさっている、と。例の聯隊、幕僚も伝手の御蔭で目処がついたし俺の配属辞令も間も無くだ、――間に合うかな?」
 豊久の問いに大辺はわずかに胸を反らせて頷いた。
「間に合わせるしかないでしょうし、間に合わせます。その為の部隊と言っても過言では無いでしょうからね」
――大型の独立聯隊であり、連隊長はこの英雄となっている駒城の陪臣だ。新設と云う不安点があるが一個旅団に匹敵する――へたすればそれ以上の戦力になりうると言ってしまっても過言ではない、余程の遅れがない限りは確実に龍州への派遣軍に組み込まれるだろう。

「そうだな、本来なら戦力化が間に合わずといきたいところだが・・・・・・まぁ、生きている英雄の存在意義なんざ。他人を持ち上げて面倒をおっかぶせる為だからな」
 肩を竦めながら発する言葉は飄然とした表情とは真逆に辛辣なものであった。
「相変わらず言ってくれるな。そうぶつくさ言う割には休暇を切り上げる程、軍務に熱心なようでなにより
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