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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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皇紀五百六十八年 五月十五日 午前第十刻
兵部省 陸軍局 人務部人務第二課 事務室
駒州鎮台司令部附 馬堂豊久〈皇国〉陸軍中佐


 馬堂豊久はまたも、困惑の色を露わにしていた。
 彼は次の配属先が内定した以上第十一大隊に残る部下達の面倒を見なければならないと思っていた。これは将家の将校がもっている半ば慣例とかした習慣である。
 ――これでも人務部に籍をおいていた口だ、同年代の陪臣将校達よりは伝手を持っているつもりだったのだが――
「この申請では一個大隊を新編するのとまるで変わらないな。剣虎兵も未だ数が少ないから都合をつけるのが難しい」
 彼の要求が無茶だったのか尉官の人事を司る人務部人務第二課長の草浪中佐がそれを手厳しく撥ねつけられたのである。守原傘下の陪臣格で一番の俊英だと評されている男であり、馬堂中佐自身も軍監本部に籍を置いていた際に面識を得ているのだが、あっさりと木で鼻を括ったようにあしらわれてしまった。
とはいっても草浪のこうした態度は護州公の弟――守原英康御大将閣下相手でも変わらない事を豊久は知っていた。
「各鎮台で既存の部隊の増強が進められている。第十一大隊は、今は兵部省直轄の中途半端な状態であるから優先順位も低くなる。今から申請を出しても早くても夏までにどうにかなるかならないかだろうし、経験のある剣虎兵将校は引っ張りだこだ、今まで大隊から引き抜きが行われなかっただけでも優遇されていると思ってもらいたいな」
 人材不足が著しい兵科である事は理解しており、少々、無茶を言っている事は自覚しているがこれほど詰問されるような口調で言われると困惑と反発が内心こみあげてくる。
 ――捨て駒同然の後衛戦闘を命じたのはあの守原英康だ、ならば多少は便宜を図っても良いだろうに。
「補充を急がせるのは難しいと?」
「気持ちは解らないでもないが後任の大隊長に任せた方が良いだろう」
――後任、ね。俺の事もあるから既に決まっていそうなものだが。まぁ、これで龍州辺りで起こるだろう死闘に駆り出されないのならば少しはマシかね?
「・・・・・・はい」
 だが、個人的な感傷ではあるが、あれだけ苦労させるだけさせてさっさと捨てて連隊に移るのは酷く気に入らなかった。
「――肝心の後任は決まっておりますか?」
北領鎮台の残存部隊らは書類上、兵部省直轄となっているが、守原英康が主導しているので正式に発表されるまで殆ど何も分らないのだ。
「――候補は上がっているのだがね、未だ決まっていない。何しろ北領で名を馳せた部隊だからな、慎重に吟味せねばならない。」
一拍おいて、草浪は眼前の中佐に鋭い眼を向ける。
「そして、当然ながらその立役者である君も随分と注目されている。――この様に、な。」
懐から取り出した書状を豊久に押しつける。
その送り主の名は
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