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ホフマン物語
第一幕その五
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時の言葉が今でも耳に残っている。木霊みたいにね」
「ふむ、そういうことか」
 リンドルフはそこまで聞いて頷いた。
「まさかこんなところで聞けるとはな。わしは運がいい」
「ちょっと待った」
 ここでナタナエルがまず気付いた。
「ホフマンさん、その唄だけれど」
「うん」
「前に紹介してくれた時と少し違っているけれど。変えたのかい?」
「いや、変えてはいないけれど」
 ホフマンはそう答えた。
「そうなのか。けれどそれってクラインザックの唄とは違うような」
「彼女の唄だが」
「彼女の!?」
 学生達もそれを聞いていぶかしみはじめた。
「クラインザックじゃなくて!?」
「あ、いや」
 ホフマンはここでようやく我に返った。慌てて取り繕いはじめる。
「何でもないよ。何でもね」
「そうなの」
「で、クラインザックの唄はこれで終わりなんだね」
「うん。それじゃあ本格的に飲むとするか」
「それじゃあ」
「ミューズに乾杯」
 ニクラウスが温度をとった。
「よし、ミューズに乾杯」
 ホフマンも学生達もそれに応えてまた乾杯をした。ホフマンはまたビールを勢いよく飲み干した。
「美味いね、このビール」
「ああ、何かいつもと違うね」
「そうでしょう。とびきりいいのを仕入れてきましたから」
 ホフマンの側にいたボーイがそれに答える。
「この黒ビールが」
「はい。仕入れるのには苦労しましたよ。けれど喜んでもらえたようで」
「うん。ソーセージもいいしね」
 ホフマンは今度はソーセージを食べながら言った。
「詰まらないことは忘れてね」
「詰まらないこと」
 ナタナエルがまた反応を示した。
「やっぱりな」
「どうかしたのかい?」
 学生達の中にはそれを聞いてナタナエルに声をかける者がいた。そして彼もそれに応えた。
「ああ、ホフマンのことだがな。彼は今恋をしている」
「ふむ」
 リンドルフはそれを聞いてニヤリと笑った。
「やはりな」
「相手は誰かまではまだわからないけれどな」
「面白いことを言うね」
 そしてホフマンもそれに乗ってきた。
「僕が恋をしているか、なんて」
「図星ですかな」
 リンドルフはここで彼に挑発を仕掛けてきた。
「ですから反応した」
「面白い仮説ですね」
 リンドルフはこれを予測したのであろう。ホフマンも乗ってきた。
「そうした洞察がないと政治家にはなれないのですか」
「いやいや」
 リンドルフはホフマンの問いに対して笑って返す。
「悪魔の噂をすれば角、といったものですかな」
「それは面白い例えです」
 ホフマンも笑みを作って返す。
「流石は政治家であられます。まるで不幸の鳥の囀りの様な御言葉です」
「法律は時として毒になりますな」
 政治家であるリンドルフを
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