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ホフマン物語
第五幕その一
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ラを」
「そんなことはもうどうでもいいさ」
 ホフマンは酔い潰れる寸前の状態でこう言った。
「酒さえあれば。さあ飲もう」
 そう言って学生達にも酒を勧める。
「美味いぞ、今日の酒は」
「まだ飲むのか」
「ああ、今日もとことんまで飲んでやるさ」
 杯を手にしたままこう宣言した。
「だから皆も飲もう、とことんまでな」
「それじゃあお付き合いしますか」
「有り難う」
 ホフマンはそんな学生達に対して礼を述べた。
「それじゃあ頼むよ」
「了解」
「マスター、どんどん持って来て」
「おいおい、大丈夫かね」
 マスターはそれを聞いて笑いながら返した。
「お金の方は」
「お金なら持ってるよ」
「それじゃあ身体の方は」
「何、酔い潰れたらそれまでさ」
 ホフマンと学生達は笑ってこう言った。
「酔い潰れた奴は床の上だ」
「そしてそのまま寝てしまえ」
 彼らは口々にこう言う。
「最後の一滴まで飲んじまえ」
「後のことなんて知るもんか」
「そうさ、今は酒さえあればいい」
 ホフマンはまた言った。
「飲んでやる、とことんまでな」
「ホフマン」
 ニクラウスがそんな彼に声をかけてきた。
「何だい?」
「それでいいんだね」
「ああ、構わないさ」
 彼は自暴自棄気味にこう言った。
「どうせ僕には酒しかないんだからね」
「そうなのか」
「ああ。酒は全てを忘れさせてくれる。嫌なことも何もかも」
 やはり三つの話をしたことは彼にとってこたえることであったのだ。苦渋を込めた声で言う。
「オランピアもアントニアもジュリエッタのことも何もかも」
「それは誰のことなのかしら」
 ここで突如として声があがった。女の声であった。
「聞いたことのない名前だけれど」
 そこには絹の赤いドレスで着飾った貴婦人がいた。黒い髪に緑の目を持っている透通る様な白い肌の女性であった。細面の顔に紅の小さな唇をしている。まるでルネサンス時代の絵の中から出て来た様な美女であった。
「誰のことなのかしら」
「ステッラ」
 それを聞いた学生達が彼女に顔を向けた。
「どうしてここに」
「ちょっとここに来る様に言われたから。それで来たのですけれど」
 彼女は答えた。その声は美しくまるで天使のそれであった。
「そうでしたね、アンドレ」
「はい」 
 アンドレはそれに頷いた。
「そうして来たのだけれど。ホフマンさんは酔い潰れているし」
「あれが彼の最も好きなものなのですよ」
 ここで酒場の扉がゆっくりと開いた。そしてリンドルフが何事もなかったかの様にすうっと姿を現わしてきたのであった。

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