第百十四話 幕臣への俸禄その九
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彼等もまた海を見ていた。そうして。
「明日もたっぷりと獲るか」
「わし等の田畑でのう」
海にも平穏が訪れていた。織田家の統治は海にまで及び平穏なものにしていた。それは陸の上と同じだった。
土佐の方でもそれは同じだ、元親は幸せに漁をしている土佐の漁師達が港を出るのをまだ暗いうちに見た、そして周りの者達に話した。
「こうでなくてはな」
「なりませんか」
「海もまた」
「土佐は陸の孤島じゃ」
四国は島であるがその四国の中でもだというのだ。
この土佐は南は海でありその他の方角は見事に山に阻まれている。四国の他の国に行くのも一苦労なのだ。
しかもこれまで多くの豪族に分かれて争い田畑を耕すどころではなかった。無論町を整えることもである。
だからここで元親も言うのだ。
「それが一つになりじゃ」
「ようやくでしたな、それも」
「まさに」
土佐を一つにすることも難しかった。長宗我部家はそれこそ血みどろになって土佐中を駆け回り戦い土佐を統一した。だがそれでもだったのだ。
「しかしです」
「政はそれからでしたが」
「精々田畑や町位しか考えていませんでした」
「しかし織田殿はそれに加えてです」
「海もですから」
「大きいわ」
元親は楽しげに笑って言う。
「伊達にわしを破ったわけではないわ」
「ですがあの時殿はあえて向かわれましたが」
家臣の一人が元親にこう問うた。
「退いてもよかったというのに」
「あの時か」
「はい、あえてそうされましたが」
「あのまま土佐に戻って戦うこともできた」
それはその通りだというのだ。
「しかしじゃ」
「しかしですか」
「あそこで退いては我等は今ここにはおらんかった」
土佐で戦っていればどうなっていたのか、元親その時に直感的に悟ってそのうえであえて前に出て戦ったというのだ。
そしてそうしなければどうなっていたのか。彼はこのことについても言った。
「敗れておっただけではない」
「それだけではなくですか」
「うむ、我等は取り潰されておった」
織田家にそうなっていたというのだ。
「信長公は確かに寛容で必要以上の血は求めぬ御仁じゃが」
「家臣にするだけの力がないと見るやですか」
「それでもう」
「信長公は一度用いた家臣は絶対に切り捨てぬが」
このことは徹底していた、信長に限って人を切り捨てることはない。
だがそれだけに用いるにあたってだというのだ。
「人をしかと見る」
「そして全てを見抜かれ」
「そして用いられる方ですな」
「だからじゃ」
それでだというのだ。
「わしはあそこで前に出て戦ったのじゃ」
「そして我等を見せたのですか」
「長宗我部家を」
「そういうことじゃ。あそこで戦わねば我等は用いられておらぬ」
織田家
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