第百十四話 幕臣への俸禄その八
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羽柴は二杯目を飲みこう言った。
「一杯目より熱くしかも量が少ないですな」
「お気付きですか」
「一杯目はまずは喉を潤してですか」
「そう思いまして」
それで最初はぬるめで多くしたというのだ。
「それでなのです」
「ですな。これが気遣いですな」
「そうなりますな」
「明智殿なら必ず今以上の大身になられますぞ」
十万石に留まらない、またこの話になる。
「ではもう一杯を」
「はい、どうぞ」
茶はまた飲まれる。羽柴も明智も己の栄達を己の為でなく母親や女房の為に使わんとしていた。とにかく今織田家は幕臣達の心も取り込みつつあった。
そして国は治められていた、瀬戸内でも。
漁船達が意気揚々と漁をしている、その彼等が言うのだ。
「海賊もおらんようになったわ」
「うむ、よいことじゃ」
「ちょっと油断したら出て来て銭や魚を寄越せと言ってきたが」
「それがおらんようになった」
「まことによいことじゃ」
海賊は彼等からそうしたものを脅し取っていたのだ。だがその彼等も九鬼の水軍に徹底的に退治されたのだ。
それで海も穏やかになり彼等も平和で暮らせる様になったのである。
そのことについて彼等は魚も見ながら話す。見れば実にいい魚達だ。
「この魚をわし等で食ってのう」
「干物なり何なりにして売れば銭になる」
「わし等の暮らしもよくなるわ」
「それにじゃ」
見れば海にいるのは彼等だけではない。堺に向かう船も出る船もある。瀬戸内が穏やかになりその行き来は増えていた。
その彼等も見て話すのだった。
「商売も盛んになってきたのう」
「そうじゃな、商いをする連中も気楽になったわ」
「ついこの前まで何かというと海賊に怯えておったが」
「今ではこうじゃからな」
「実によいわ」
そして大漁だった、魚は実に多くしかも種類もかなりだ、瀬戸内は彼等にとって実にいい海だったが今はさらにだった。
村に帰ってもだ。そこにあるのは。
「昆布も若布もある」
「これも食って売るか」
「いや、まことによくなったわ」
「全ては織田様のお陰じゃ」
「信長様がおられるからこうなったわ」
彼等は舟から明るい笑顔で降りる。そして魚を揚げてさらに昆布や若布も見る。貝もあれば海老もある。
海を見れば青い、その青い海は広く穏やかである。
子供がその青を見てこんなことを言った。
「そういえば織田様の色って青だよな」
「その通りじゃ。織田家は青じゃ」
「服も具足も旗も青じゃ」
陣笠も陣羽織も鞍もだ。とにかく全てを青くしているのだ。
海も青だ。それでその子供は言うのだった。
「海と織田様は同じなんだな」
「広く大きいか」
「そうだというのじゃな」
「ああ、だよな」
子供は大人達に言う。何時しかその海を指し
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