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ホフマン物語
第四幕その五
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ったのですか」
「それは謙遜です、マダム」
 ホフマンはそんな彼女に対して言った。
「貴女に魅了されない者がいるでしょうか、貴女を知って」
「それは買い被りですわ。女なぞこの世には幾らでもいるもの」
 彼女は言葉を返した。
「それは」
「私は一介の娼婦に過ぎません」
 ここでわざとホフマンから顔を背ける。
「ですから。その様なことを仰られても」
「娼婦が何だというのですか」
 これが罠であった。そして若いホフマンはそれにかかってしまった。
「貴女が例え何者であろうと。声をかけて下さったからには」
「どうされますの?」
「何があっても貴女の傍におります」
「何があっても?」
「はい」
 そしてホフマンはまたしても罠にかかった。
「例え何があろうとも。そして」
「そして?」
 ジュリエッタは彼を上手く導いていた。気付かれぬ様に。娼婦、いや女の妖しい一面をまだわかっていなかったホフマンはまたしてもそれにかかってしまった。
「何とあれば全てを捧げましょう。お金でも何でも」
「心もですか?」
「勿論です」
 これで全ては決まってしまった。ホフマンはまんまとジュリエッタの、ダベルトゥットの罠にかかってしまった。しかしやはりと言うべきか。ホフマンはそれには気付いていない。
「そう」
 ジュリエッタはそれを聞いて呟いた。顔を背けている為ホフマンからは見ることができない。だがその顔は悲しさに覆われていた。ホフマンには見せないようにしていた。そしてそれがどうしてかなぞ当然若いホフマンにはわかる筈もなかった。全てはジュリエッタの腕の中にあった。
「それじゃあ私は貴方の心を」
「喜んで」 
 彼は言った。
「僕の全てを捧げましょう。これで宜しいですか」
「ええ」
 ジュリエッタはホフマンの腕の中で頷いた。抱いているのはホフマンであるが抱かれているのもまたホフマンであった。彼は悪魔の腕を知らなかった。
「けれど」
 だがジュリエッタはここで言った。
「けれど・・・・・・何でしょう」
「いえ、何でもありませんわ」
 言いかけたところで止めた。
「何でも。宜しいです」
「左様ですか」
「貴方・・・・・・心はいらないのですね」
「先程も言いましたが僕の心は貴方のものです」
 彼はまた言った。
「それなのにどうして。必要だと言えましょう」
「わかりました」 
 そこまで聞いて頷いた。

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