弐ノ巻
かくとだに
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雪が思い付いたようにぱらりと降ってはすぐにあがった。
僕はため息をついた。
毎日がこんなに鬱陶しかったことが今まであっただろうか。
ここ最近、ずっとそうだ。
あの時。昏々と眠り続けた瑠螺蔚さんが目を覚ました時、僕がどんなに安心し、嬉しかったか、きっと瑠螺蔚さんにはわからないだろう。
瑠螺蔚さんが目を開けず息もしているのかさえも不安な間、どんなに苦しく辛かったか。
「瑠螺蔚さん!」
僕は瑠螺蔚さんが目を開けた時と聞いた時、まず夢じゃないかと疑って、会って夢じゃないと知って、不覚にも涙ぐんでしまった。
医からは、『お体の方は大きな問題はないようです。しかし、お心の傷の方が大変重大です。大丈夫だとは思いますが、もしかしたらこのままの可能性もございます』という何とも頼りない言葉を聞かされていただけあり、安堵はひとしおだった。
瑠螺蔚さんは僕を見留めると、かすれた声で小さく何かを言った。
「え?どうしたの?何かして欲しいことでもあるの?」
嬉しさのあまり、望むことはなんでも叶えてやろうと言う気になって、耳を近づけると、瑠螺蔚さんは「ご足労いただき申し訳ございません」と言っていた。
僕はすぐに笑い飛ばした。瑠螺蔚さんが起きたということを知って、気が高ぶっていたんだろうと思う。
「何言ってるんだよ、瑠螺蔚さん」
「申し訳ございませんが、お引き取り願えますでしょうか」
これも瑠螺蔚さんが言った言葉だ。
僕は、瑠螺蔚さんがふざけているのだろうかと思った。
もしくは、僕を別の誰かと勘違いしている、とか。
それでなくても母と兄を亡くしたのだ。僕が来るまでに誰かから知らされたかもしれないし、まだ知らなくてもその日はとりあえずすぐ部屋に戻ることにした。
次の日、僕は桑苺を小さな籠いっぱいに持って瑠螺蔚さんの所へ向かった。少しでも慰めたかったから。
今までの瑠螺蔚さんなら、「あら、なに持ってるの?」と目ざとく気づき、「きゃーなになに食べていいの?ありがとう!」と嬉しそうな顔を見せるはずだ。
あとから考えても、僕はやっぱり浮かれていたんだろうと思う。瑠螺蔚さんが起きたことに。会える嬉しさに。
僕だって、俊成殿やあやめ殿が亡くなられたことは悲しい。けれど、僕は、いやこの戦国を生きる男は多かれ少なかれ、死というものが日常の一部になっているのだ。悲しいと思う心ももちろんあるが、そのな
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