弐ノ巻
かくとだに
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かにも冷静で褪めた心があり、どこかで仕方がないことだと諦めている。死に抗うことに。
命を奪うこと、奪われること。死こそが日常であり、それにいちいち嘆いてはいられないのだ。慣れなければ生きていけない世の中なのだ。
それが大切に思う人なら話は違ってくるとは思うけれど。
だからその時、家族を亡くしたばかりの瑠螺蔚さんと大切な人が目覚めた僕の気持ちには大きな隔たりがあった。
「瑠螺蔚さん。入るよ」
僕は返事も待たずに障子をあけた。
上半身だけ起き上らせている瑠螺蔚さんを見た途端に、どきっとした。
瑠螺蔚さんは、僕の声が聞こえているのかいないのか、僕からは横、瑠螺蔚さんにとっては、まっすぐ正面を見ていた。
その視線が、ゆっくりと僕に向けられたのだけれど、その目がまるで何も映さないように見えたのだ。変な表現だが。
僕は弾んでいた気持ちに冷や水をかけられた気がした。そこでやっと気がついたのだ。僕と瑠螺蔚さんの心の距離に。僕が考えるほど簡単ではない現状に。僕は瑠螺蔚さんが起きてくれたことが嬉しかった。もう大丈夫だと医に言われてこれで何もかもうまくいくと、元に戻るとそう安直に考えてしまっていた。
そんなわけはないのだ。失われた命は戻ってはこない。傷ついた心も簡単に戻りはしない。現に前田家は焼きつくされ、無残な姿を晒している。未だ残骸の片づけすら済んでいない。焼け死んだ者の骨も出ていない。
「瑠螺蔚さん」
僕は真顔になって瑠螺蔚さんの肩を掴んだ。
しかし言葉の続きが出てこない。
僕が、今どんな言葉をかけてやれるのか。何を言っても、なにも届かない気がして声が詰まった。
「御放し下さい」
そう言う瑠螺蔚さんの声は静かだった。何の感傷も、その言葉には籠められていなかった。言葉も、瞳も、心さえ、すべてで僕を拒絶しているようだった。
「御放し下さい」
もう一度、重ねてそう言われて、僕は茫然とその肩を放した。
「兄上様、御用と伺いましたが…」
「やる」
僕は由良に籠ごと桑苺を押しつけた。渡せなかった以上手元に置いておいても無駄だし、ましてや一粒だって食べる気にはならなかった。
「まぁ兄上様。どうなさったんですか、こんなに沢山のおいしそうな桑苺。」
そこらで適当にかき集めてきたのではないと気がついたのだろう、由良は呆れたように言った。
「兄上様、これは
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