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ホフマン物語
第四幕その一
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第四幕その一

                     第四幕 ジュリエッタ
 大晦日のヴェネツィアは冬だというのに暖かい。イタリア特有の南国の気象もあることながらその開放的な空気と青い空が人にそうした心を与えているのであろうか。この街は冬だというのに晴れやかであった。ドイツの寒く、重い冬空とは全く異なっていた。それと比べるとまるで楽園の様であった。
 大晦日であり着飾った人々が街の中の至るところにいた。この街の名物であるゴンドラにもこの年最後の日、そして去りゆく年を懐かしむ人達が多くいた。ホフマン達もその中にいた。寒いドイツの冬を避けてこの街に保養に来ているのである。この時ホフマンはかなり前にドレスデンで見掛けたとある作曲家のことを考えていた。
「あの小柄で大きな頭をした男」
 鋭い光を放つその男のことが頭から離れなかった。
「彼もこの街が好きだったそうだな」
 一度酒屋で出会い、その時は意気投合して飲んだのである。話してみればかなり独特な男で尊大で自意識過剰であったがどういうわけか惹かれるものがあった。
「今はどうしているかな」
 風の噂ではドレスデンでもあった革命騒ぎで逐電したらしい。
「どうにも個性的な奴だったがそのうち名前を挙げるだろう」
 彼は直感でそれを感じていた。
「あれだけの才能があれば。出て来れない筈がない」
 そう思い終えたところでその考えを別のものに移した。赤いワインにである。
 ホフマンは水路に面した洒落た酒屋の外で飲んでいた。青い空に水色の水路を眺めながらそこでパスタと赤ワインに舌鼓を打っていた。見れば店の外のテーブルは何処も満員であった。
「おおい、ホフマン」
 その水路から彼を呼ぶ声がした。
「そこにいたのか」
「その声はニクラウスか」
 ホフマンはその声に気付き顔を水路の方に向けた。するとそこには一隻のゴンドラがあった。ニクラウスと情熱的な黒い髪を持つ豊満な胸の女性がそこにいた。
 見れば一目で心を奪われる様な美貌の持ち主であった。白い絹の服からもはっきりわかる豊かな胸に細身の身体。顔は気品があり一見すればそれは貴婦人のものである。だがその身体全体から漂わせるけだるささえ混じった妖しいまでの色気が彼女を貴婦人ではないと語っていた。その琥珀にも似た大きな目も紅く小さな唇にも濃い化粧が施されていた。それを見てホフマンは彼女が何者かわかった。
「娼婦か」
 そう、その雰囲気はまさに娼婦のそれであった。何よりもその物腰が彼女が娼婦であることを物語っていた。仕草の一つ一つに男を惑わせる何かがあるのだ。
「こんなこともわかるようになったんだな」
 ホフマンは自嘲めかしてこう呟いた。
「今までのことで。わかりたくはなかったのに」
 ローマ、そしてミュンヘンでの辛い経験が彼に女性と
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