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ホフマン物語
第四幕その一
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は何であるかを僅かながらであるが教えたのだ。だがそれは僅かであり彼は完全にはわかってはいなかった。わかるまでにはまだ相当の苦しみが必要だったのである。しかし彼はそれをまだ知らないでいた。
「そちらの方は」
 彼は呟くのを止めニクラウスに問うた。
「こちらの方かい?」
 ニクラウスはそれを受けてホフマンに聞きなおした。その女性を手で指し示しながらである。
「ああ。君の知り合いかい?」
「このゴンドラでたまたま一緒になったんだ」
 ニクラウスはそう語った。
「ジュリエッタと申します」
 彼女の方から名乗った。
「ジュリエッタ」
「はい。宜しくお願いしますね」
「え、ええ」
 ホフマンはその声を聞くと何故か声を上ずらせた。
「こちらこそ。宜しくお願いします」
「今宵は綺麗な夜になりそうです」
「綺麗な夜に」 
 ホフマンはそれを受けて顔を見上げた。
「雲一つありませんから」
 彼女はまた言った。
「楽しみですね。いい夜になりますよ」
「そうですね」
「今日という日は二度と来ませんから」
 ホフマンに囁く様にして言う。
「美しい、忘れられない夜であれば何よりです」
「はい」
 ホフマンは頷いた、もう彼女から目を離してはいなかった。
「ホフマン」
 ゴンドラが側までやって来た。ニクラウスはそこから降りながら彼に声をかけてきた。
「何だい?」
「それはイタリアのワインだね」
「ああ、そうだけれど」
 ホフマンはそれに答えた。
「飲むかい?美味いよ」
「ああ、是非」
 ニクラウスは答えながら彼の方に歩み寄ってきた。そしてジュリエッタにも顔を向けた。
「貴女もどうですか?」
「宜しいのですか?」
「ええ、どうぞ」
 ホフマンはにこやかに笑ってそれに頷いた。
「飲むのなら人が多い方がいいですから」
 少し寂しげな顔でこう言った。するとジュリエッタもそれに気付いた。
「あの」
 彼女は何も知らないといった顔でニクラウスに尋ねてきた。
「何でしょうか」
 ニクラウスは小声でそれに応えた。
「何かあったのですか?あの方は。深酒の様ですが」
「ちょっとね」
 ニクラウスは苦笑いを浮かべて答えてきた。

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