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巫哉

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るとは考えられなかった。



 日紅は迷った。後悔する事とはなんだろう。悪いことなのか、だとしたらそれは何なのか。



 どうしたらいいのだろう。日紅は、一体どうすれば。



 わからなくなって日紅は立ち尽くす。



『日紅』



 はっ、とした。じわりと胸の奥が熱くなる。



 呼んでいる。『彼』が。



 そうだ。日紅を待っている。暗闇の中、たったひとりで。



「…行かなきゃ」



「これだけ言っても分からんか」



 妖がやれやれとでも言うように、日紅に向かって手を伸ばした。



「あ!?う…」



 日紅の喉に、一瞬で妖の陶器のような指が巻きつく。



「…は、…ぁ…」



 ぎりりと締められて日紅は声も出せない。



「帰れ。何度も言うが、お主らのためだ。それとも足の一本でも千切れば大人しく諦めるか?」



 言葉の通りに、日紅の喉を絞めていない方の腕で日紅の右腿をつかむ。じわりと強い力がかかり、多分指先が肉に食い込んでいるのだろうが、日紅は息がつまってそれすら認識できないほど朦朧としていた。



 その脳裏では蹲る『彼』がぶれて瞬いていた。



 …巫哉。



 一瞬、日紅の意識は飛んだ。



 気がつけば、日紅はぐらぐらと揺れる頭で、変わらず暗い道端にいた。



 右肩がやけに熱く、なにか暖かい水で濡れているような気もする。



 ず…ずる…と日紅の耳の近くで音がする。



 その水を触った手を見て、日紅は焦点の合わない目のまま、口を開いた。



「ねぇ」



「…なんだ」



 耳の横で囁くような声がする。



「なまえ、なんていうの」



「名?わたしのか?」



 笑ったような気配がして、日紅の体がぐらりと揺れた。下腹部に固い腕を感じて、日紅は自分が妖に抱えられているとぼんやりと思った。



「聞いてどうする」



「聞きたい。ただ」



「ウロ」



 またふっと一瞬日紅の意識が飛ぶ。



「あやつはそう呼んでいた」



 すぐに焼けるように熱い首元と、ずるりという水音が意識を呼び戻す。



 日紅は唇だけで笑みを作った。



 (ウロ)。ひねくれている『彼』が言いそうな名だ。



「ウロ。あたしは帰らない」



 水音が止まる。



「あたしを食べてもいい。でも帰らない。だって巫哉があたしを待ってるから。心配してくれてありがとう。あたしに
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