第三幕その四
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らした。
「これでよし。もうこれであいつとも」
「だといいですけれどね」
しかしニクラウスがそれに疑問の言葉を呈した。
「何かあるのかね」
「はい。嫌な予感がします」
「大丈夫だ。もう奴は部屋に入ることは」
その時だった。壁からミラクルがニュッと出て来たのであった。そして薬の小瓶をカタカタと鳴らしながら無気味な笑みを浮かべていた。
「この薬を毎日飲まれれば」
「馬鹿な、こんなことが」
クレスペルだけではなかった。ホフマンも同時に叫んだ。
「これは一体」
「少なくともこれは現実のことだ」
ニクラウスはミラクルを見据えながら言った。
「これがか」
「そうだ。よく見ておくんだ。いいな」
「ああ」
ホフマンは頷いた。クレスペルはたまりかねてミラクルを一階に連れて行く。無気味で不可思議な騒動はまだ続いていたのであった。
「仕方がないよ」
ホフマンはアントニアに対してこう言った。
「唄えないことが」
「ああ。唄うと君の命に関わるのなら。仕方がない」
「有り難う、ホフマン。けれど私は」
「本当は違うのかい?」
「ええ」
彼女は力なく頷いた。
「唄いたいわ、本当は」
「けれど若し唄ったら」
「わかっているわ」
「残念だけれどそれはけは止めてくれよ」
ホフマンも本心は違っていた。だがここはそれを押し殺すしかなかったのだ。
「僕は君の為を思って言っているんだからね」
「ええ」
「君がいなかったら僕は。どうしていいかわからないよ、本当に」
「わかったわ」
彼女は力なく頷いた。
「ホフマン」
その横にいたニクラウスが声をかけてきた。
「今日はもう」
「ああ、そうだったね」
ホフマンは彼に言われてようやく気付いた。
「かなり長くいたね。それじゃあこれでお暇しないと」
「帰るの?」
「また明日来るよ」
彼は答えた。
「だから。安心してね」
「ええ」
こうしてニクラウスに連れられるようにしてホフマンはアントニアの前から去った。そして彼女は遂に一人に戻ったのであった。
「仕方のないこと」
彼女はやはり力なく頷いた。
「そうなのよね。だから諦めるしか」
「いや、それには及びませんぞ」
突如として何処からか声が聞こえてきた。
「誰!?」
「私です」
声は後ろから聞こえてきていた。ミラクルがアントニアの影から出て来たのだ。まるで海から姿を現わす魔人の様にだ。すうっと出て来た。
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