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ホフマン物語
第三幕その三
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「これはまた」
「これはまたではない。そして娘は妻と同じ病だ」
「だからこそ私がここに参上したのですよ」
 恭しく頭を垂れながらこう述べる。何故か芝居がかった動作であった。
「お嬢様の為に」
「殺す為か」
「まあ落ち着いて。椅子にでも腰かけて」
「ふん」
 椅子がやって来た。クレスペルは憮然とした顔でそれに座る。この時彼は怒りのあまり気付いてはいなかった。椅子がひとりでにやって来たということに。
「まず危険を避けるには」 
 ミラクルはクレスペルに対して語りはじめた。
「その危険を知らなければなりません」
「彼女の検診をさせて下さい。そうすればすぐにわかります」
 その手を二階に向けて指し示す。すると扉がすうっと開いた。
「さあどうか」
「何故今扉が開いた?」
 流石にこれにはクレスペルも不信感を露わにした。
「今何をした」
「風が開けてくれたのですよ」
「馬鹿を言え、そんなわけがあるか」
「いえ、本当に」
 彼は相変わらずしれっとした態度で答えた。
「ひとりでに」
「御前がやったのではないのだな」
「まさか」
 その言葉を嘲笑したかのように返す。
「そんなことが出来る筈が」
「人間ならばな」
 不審さを表に出しながら言う。
「出来る筈もないことだが」
「私は人間ですよ」
 そう言いながら手を振りはじめた。
「この通り」
「むむっ」
「ではクレスペルさん」
「ああ」
 彼はその手の振りを見ているうちに何かが変わった。そしてその何かに取り憑かれたかのように立ち上がった。
「案内して下さい」
「わかった」
 こうして二人は階段を登りアントニアの部屋に入った。そこにはアントニアの他にホフマンとニクラウスもいた。
「どうも、アントニアさん」
「はい」
 彼女は恭しく頭を下げるミラクルを不審な目で見ながら頷いた。
「実は貴女の御父様のお願いで貴女を検診することになりました」
「私をですか?」
「はい。宜しいでしょうか」
「父が仰るのなら」
 アントニアはそれをよしとした。ニクラウスはぼうっとその場に立つクレスペルを見て嫌な予感を感じていた。そして隣にいるホフマンに囁きかけた。

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