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ホフマン物語
第三幕その二
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 また俯いて顔を背けて言った。
「あの甘い歌も。もう二度と唄えないのよ」
「僕達が二人で唄った歌もかい」
「ええ」
 彼女はまた答えた。
「もう二度と。唄えはしないわ」
「そんな、馬鹿な」
 ホフマンはそれを必死に否定しようとした。
「そんなことが。有り得ないよ」
「いえ、本当のことよ」
 アントニアは悲しみに満ちた顔と声でこう応えた。
「あの薔薇の歌も。唄えないの」
「どんな歌も」
「ええ」
「僕の作った歌も。何も唄えないのか」
「何も。もう私は二度と唄うことはできないの」
 悲しい言葉であった。
「誰がそんなことを言っているんだい?」
「御父様が」
「クレスペルさんが」
「お医者様は逆のことを言っていらっしゃるけれど」
「お医者様、それは一体」
 ホフマンは医者という名を聞いて顔を向けた。本来なら医者が言っているのなら歓迎すべきことだがこの時はどういうわけか胸騒ぎがした。
「ミラクル先生というの」
「ミラクル先生」
「知っているの?」
「いや、知らない。けれど」
 名前を聞いて胸の不安がさらに大きくなるのを感じていた。
「どういうわけかわからないけれど。嫌な予感がする」
「そうなの」
「君のお父さんがそう言うのなら。仕方ないかも知れない」
「貴方もそう言うのね」
 唄ってはならない、その言葉を言われてアントニアはまた悲しい顔になった。
「仕方ないよ。とにかく今は控えた方がいい」
「そんな・・・・・・」
「僕も君のお父さんも。君のことを思っているから」
「けれど」
「けれどもそれもないよ。わかったね」
「ええ。仕方ないわ」
 こくりと頷いた。そこに足音が近付いてきた。

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