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ヴァレンタインから一週間
第12話 水晶宮は何処に有る?
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「起きて」

 落ち着いた少女の声の後、ゆっくりと揺り起こされる俺。
 二日目の朝も、昨日と同じような穏やかな始まり。そう、至福の時間の終わりに相応しい雰囲気。そして、一日の始まりを彼女の声と共に始めるのも悪い事では有りません。

 向こうの世界の一日の始まりは、無機質で無個性な時計のアラーム音でしたから。

「朝」

 声の調子は今までと変わらない、彼女独特の抑揚の少ない平坦な口調。更に、事実のみを告げる素っ気ない雰囲気。
 しかし、彼女自身が全てに対して無関心と言う訳ではない事は、この二日間、同じ時間を過ごして来た事に因って理解出来るように成りました。

「…………な。有希」

 少し、寝ぼけたままの頭で、昨夜交わした約束を忘れかけ、長門さんと呼び掛けようとしたトコロを慌てて言い直した俺。
 ……だったのですが、幸いにして彼女はそんな細かい事を聞いては居なかった。
 ただ、驚いたような。それでいて、何と表現したら良いのか良く判らない、それでも陽に分類される雰囲気を発した。

 そう。その時、彼女が発した雰囲気は、決して不快な気分で無かった事だけは間違い有りません。

「……おはよう、さん」

 少し安堵した俺が寝ぼけたままの雰囲気で、俺の傍らに立って居るはずの有希にそう朝の挨拶を行う。昨日の朝と同じように上半身だけを起こし、右目を手の平でゴシゴシと擦りながら。
 もっとも、その縫い付けられたように開く事を拒み続ける両の瞳には、未だ彼女の麗貌を映す事に成功して居なかったのですが。

「おはよう」

 有希がそう、俺に朝の挨拶を返して来る。未だに、声と雰囲気のみでしか彼女を確認出来ていないのですが、それでも、向こうの世界。産まれてから十五年間暮らして来た世界では、この三年間は誰かに起こされる朝と言う事が経験出来なかったので……。

 但し、其処に何か微かな違和感。微妙な雰囲気ながら、彼女が発して居る雰囲気は……。

「なぁ、有希」

 ようやく開いた濃い茶系の瞳と紅き瞳に、紫の髪の毛の少女の整い過ぎた容貌が映る。
 窓から差し込む光は、冬とは思えない程の十分な光で真新しいカーテンを光らせ、彼女の表情の一部と化した銀のフレームをキラリと輝かせた。

 それに、何故だかほんの少し、昨日の朝の時よりも、彼女と俺の間の距離が近付いているような気がするのですが。

「何」

 有希の返事。それは、何時も通りの素っ気ない答えであった。但し、矢張り、その中に微かな違和感が存在している。
 この違和感の正体は……。

「有希。今、楽しいか?」

 その違和感の正体について、直球勝負の問いを投げ掛ける俺。そう。彼女が発して居る気は明らかに楽。それに、喜。出会った時の儚げな印象はそのままに
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