Chapter.1 邂逅
1話「虚無へ」
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出来る。ヒトの言葉で言うならば、『召喚獣達の故郷』とでもいおうか。外からの力がない限り、永遠に孤独と闘うはめになる。時間も空間も何もない、虚無。
俺の先輩の殆どが彼の地へ送られ、嘘か本当かその中で自我が崩壊し、ヒト型から基の魔獣へと姿を戻したと言う。遣い魔の強靭な精神をも凌駕する孤独と拒絶の白。ただそれだけがある世界。
(だが、俺は違う)
通常、使い魔は魔人の手から作り出される代物ではない。大抵は強力な同胞――魔獣達の形を変えて人型にするのだそうだ。別に人間を使い魔にしてもいいが、幾ら優秀と言われる者であろうと、人間は弱い。それこそ、よほどの物好き――『享楽の魔人』でもないかぎり、人をモデルには造らない。
だが俺は生まれた。一から魔人の手に寄って造られた俺の基本は、人間だ。違う要素ももちろん入っているが。根本から違う構造である人間は、狭間に呑み込まれない。だからこそ、そうして人は狭間から召喚獣と呼ばれる名の魔獣を安易に喚び出せ、従わせられるのだ。
俺の名前は、アシュレイ=ナ=ヴュラ。桃色の髪を持つ少女の魔人、ノーア=ナ=ヴュラの遣い魔。人間族の男、22歳。やがて俺を取り巻きだした赤い光に、諦めたように俺は目を閉じた。
******
あれからどのくらいの時がたったのだろう。1週間か、半年か、ひょっとしたら10年以上経ったのかもしれない。完全に時間の感覚は無くなったが、俺はまだちゃんと自我を保っている。狭間では腹も減らないし、髪も伸びない。全ての時が止まったかのように、ただ、白い空間が広がるだけ。
視界の中にはぽつぽつと他の同胞達もいるようだが、奴らの眼は無気力で、こちらを見ているのかさえ怪しい視線だった。たまにふっと赤い光と共にやってくる新入りも、はじめのうちは近くにいる奴らを攻撃するが、そのうちそれも面倒になったと言わんばかりに放置を始める。因みに、無気力な奴らも、攻撃されれば仕返す程度の自我はあるらしい。
(俺はアシュレイ=ナ=ヴュラ。桃色の少女の魔人、ノーア=ナ=ヴュラの遣い魔。男22歳……)
万は越えたであろう呟きは、全て白い空間に呑み込まれる。が、この呟きが、俺の自我を保っているのも確かだった。
ふと、何処からか風を感じる。ハッとして右を見た。同胞がいる。ヒトが『魔の眷族』と呼ぶものたち。対して強くはない、ドラゴン型の種だ。第八世代といったところか。魔人の血が強い程『一』に近づく魔獣の中で、8番目に強い……つまるところ、『魔の眷族』最弱に位置する黒っぽいドラゴンが、白の空間を割った黒い切れ目に吸い込まれていた。直感で分かる。あの孔は、外界へ通じている。誰かがあのドラゴンを召喚したのだ。
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