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セビーリアの理髪師
5部分:第一幕その五
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爵はイタリア風のカンツォーネを優雅に唄いはじめたのであった。
「若し貴女が私の名前を御知りになりたいのであれば」
「知りたいのであれば」
 ロジーナはその曲をじっと聴いていた。目が潤んできていた。
「是非私の唇からお聞き取り下さい。私の名はリンドーロ」
「リンドーロ様ですか」
「そう、それが私の名です」
 唄いながら答える。
「貴女を心からお慕いしていまして生涯共にいたいと思っています」
「生涯ですか」
「そうです」
 このうえない愛の告白だった。
「ですからこうしていつも朝から夜まで貴女の名を呼び続けているのです」
「そうだったのですか」
「私には何もありません」
 これは嘘だった。あえて隠しているのだ。

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