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セビーリアの理髪師
4部分:第一幕その四
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第一幕その四

「ドン=バルトロだったな」
「そう、ドン=バルトロです」
 フィガロはまた答える。
「御用心を」
「そうだな。いや」
 伯爵は女とバルトロの動きを見ていた。バルトロは何か大袈裟な仕草で彼女に声をかける。勿体ぶっているがそれもやはりユーモラスである。
「ロジーナ」
「はい」
 彼女はバルトロに名を呼ばれて応える。少し低めだが澄んだ奇麗な声である。
「何か手に紙を持っているが。それは何かな」
「アリアです」
 ロジーナは答える。一人で唄う歌だというのだ。これをアリアと呼ぶ。
「アリアか」
「はい。無駄な用心という」
「無駄な用心」
 バルトロはそのタイトルを聞いて首を傾げさせる。傾げさせながら記憶を辿るのだった。
「どのオペラのだったかな」
「御存知ありませんか?」
「最近のものはな」
 バルトロはここでいささか機嫌の悪そうな顔を見せてきた。
「あまり知らないのだ。堕落したからな」
「そうでしょうか」
「そうだ」
 機嫌をさらに悪くした顔になって答える。
「カストラートも少ないしな。どういうわけか」
「それがいいのではないでしょうか」
「よくはない。やはりカストラートこそが」
 カストラートにやけにこだわる。この時代はまだカストラートが存在していて人気だったのだ。廃れるのはフランス革命以降である。
「ないとはな。全く啓蒙主義よ」
「あらっ」
 ここでロジーナはふと声を出した。それはバルトロにも聞こえる。
「大きな声を出すとははしたない」
「アリアを書いた紙を落としてしまったの」
 実はわざとである。彼女はもう伯爵達がいる場所を知っている。それでわざと落としたのである。これは彼女の思惑があってのことである。
「どうしましょう」
「わしが拾って来よう」
 バルトロは名乗り出てきた。
「それでいいな」
「御願いできますか?」
「無論だ」
 ここではジェントルマンになって答える。
「それではな」
「有り難うございます」
 礼を述べたが心の中では舌を出している。そうして下にいる伯爵に顔を向けた。すると目と目が合った。偶然ではなかった。
「彼女が僕を見ているな」
「間違いありませんね」
 フィガロは伯爵にそう答える。
「それでは。宜しいですね」
「ああ、迷うことはない」
 そうフィガロに答える。
「では。行くか」
「はい。それでは御供します」
 二人はロジーナの目で考えを読んですっと前に出た。そうしてバルトロがあれこれ紙を探している後ろを通って家の中に入ったのであった。
 すぐに階段を昇りバルコニーのある白い部屋に入る。女性らしい装飾が所々にある。その部屋のバルコニーの入り口に彼女はいた。
「ようこそ」
 笑顔で二人を出迎える。
「お待ちし
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