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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission7 ディケ
(4) ハ・ミル村 A
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ん。もし笑う輩がいたとしたら、ラ・シュガル軍仕込みの拳で殴ってやります。皆さんも同じ気持ちですよ」
「でも……みんなは俺と違って、世界のこと考えてて、目標も理想も世界のためで……俺なんか、結局はユリウスとのことで、わやくちゃになってるだけなのに」
「構いませんとも。ルドガーさんのたった一人のお兄さんなんですから、存分に悩んで答えを出さないと後悔します。世界のことはしばらく、我々がルドガーさんの分も悩んでおきますから」

 ルドガーはローエンから目を逸らした。イエスでもノーでもウソになってしまうから、口を噤むしかなかった。

「人には誰しもリズムというものがあります。ルドガーさんにはルドガーさんのリズム、ユリウスさんにはユリウスさんのリズム。そのリズムは一人一人異なっていて、例え血の繋がった兄弟でも重なることはありません。無理に重ねようとすれば不協和音となってお互いを苦しめるだけです。ルドガーさんはすでにお分かりですね?」
「うん……」
「ルドガーさんは、ユリウスさんをすぐそばに感じられなくなって、ご自身のリズムを確立する前に、エルさんやユティさん、ミラさんといったたくさんの(おと)が一斉に入って来て、今は混乱している状態なのだと思います」
「でも、あれから何ヶ月も経ってるのに」
「心の混乱は簡単に治るものではありません。お兄さんから離れようとするルドガーさんの行動は決して間違ったものではないのです。そこは自信を持っていいのですよ。罪悪感を覚える必要もありません。巣立ちへの希求は人類共通の本能です」
「本能――」

 もはや返せる「でも」もなく、ルドガーは俯くしかなかった。

「……超えたいとか、認められたいとか、そんなお綺麗なもんじゃないんだ。俺、ずっと兄さんが大嫌いだった。兄さんを見返してやりたかった。兄さんを打ちのめしてやりたかった。そんなドロドロした汚い気持ちななんだよ。ガキの時からずっとだぜ?」

 暗い情念を合法的にぶちまけられるチャンスは、奇しくも兄と同じ「エージェント」という形で巡ってきた。

「いいのですとも。どこがおかしいものですか。ルドガーさんはお若い頃から独立心旺盛だったのですね。今日まで誰にも相談できずに、辛かったですね」
「あ……」

 とてもありふれた言葉なのに、何故かローエンの言葉はことん、と胸に落ちてきた。
 熱いものが勝手に目尻までせり上がってきた。ルドガーは慌ててローエンの手をほどき、ぐしぐしと目元を拭った。

「もしまたユリウスさんと会って、今のような気持ちになられたら、どんな形でもよろしいので、そのサインをください。前はあなたに任せきりでしたが、今度こそ私も力になるとお約束します」

 ローエンは恭しく左胸に手を当て、にっこりと笑った。彼になら不安を曝け出して
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