Mission
Mission7 ディケ
(4) ハ・ミル村 A
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女性陣がおしゃべりしながら去っていったところで、ルドガーの顔を、ローエンが屈んで覗き込んだ。そーっと顔を上げる。すぐ前に好々爺然とした笑顔。
「…………なんか、わり。気、遣わせて」
「何の。若い方の悩みにジジイがどこまで力になれるか分かりませんが」
「俺、そんな分かりやすい顔してた?」
「いいえ。たまたま私が気づけたというだけですから」
ローエンが立って差し出した掌。ルドガーは苦笑し、乾いた音をさせてそれを握り返し、立ち上がった。
――男二人で崖際の柵に並ぶ。ルドガーは木柵にもたれ、ローエンにというより、独白のようにずっと考えていたことを語り始めた。
「俺、5歳の時に母親亡くなっててさ。それで兄さんに引き取られたんだ。その時まで兄弟がいることも知らなかった。兄弟っていう割に似てるとこも全然ないし、最初兄さんは俺に見向きもしなかったから、本当は赤の他人じゃないのかって何度も疑ったよ。2年ぐらいはお互いどうしていいか分からない感じだったな。ぎこちないっていうか、空気が冷えきってた。あの頃何でか兄さん、めちゃくちゃ荒れてて怖かったし」
「温厚そうなユリウスさんにも若さゆえの暴走の時期があったのですねぇ」
「そんな可愛いもんじゃなかった気がするけど……でも、いつからだったかな。とにかく何かあって打ち解けて、家族っぽくなってきたんだよ」
「何かきっかけとなるようなことがあったのですか?」
「んーー……よく覚えてない。ただそれからユリウスがベタベタに甘くなったってのは覚えてる。いきなり豹変で子供心にも怖かったんだけど、現状、甘えられるのもユリウスだけだったし。深く考えんのやめた」
ルドガーは足元に咲く野花を茎ごとちぎって、手の中でくるくる回す。
「いつからかな。ほら、参観日とかイベントとか、あと日常的なとこでいうと、外で遊んでる時とか。普通は親が来るもんだろ? でも我が家はユリウス一人。それがすっげえ恥ずかしくなった。親がいないの知られるから。天涯孤独の子とか、親がいても不仲な子とか、いたかもしれないけど、そん時の俺はとにかく自分の家庭環境が一番恥ずかしいんだと思った。だからユリウスに言ったんだ。ユリウスは有名で目立つからとか理由つけて、一緒にいたくないって。実際、俺に近づく女子って9割9分ユリウス目当てだったし。俺自身、『あの』ユリウスの弟って目で見られるの、たまんなかったんだ」
白い花を咢ごとぷつ、とちぎって捨てる。花がなくなって茎だけが手の中に残る。
「一度そういう態度とったら、気持ちまでどんどん離れていった。過保護なとこも小うるさいとこも鬱陶しくて。ユリウスが悪いことしたわけじゃないのに、気づくとユリウスが大嫌いになってた」
茎をぷつ、ぷつ、とちぎっていく。短くしていく。
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