弐ノ巻
輪廻
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かに背を押されるようにふらふらと歩き続けて、ふと気がつけば、目の前に湖があった。
湖面は月光を反射し、てらてらと底知れず不気味に光っている。
黒い水面は、どこまでも終わりなく続くように広がっていた。
まるで、湖ではなく、海ね…。
『嵐はいつか止み、陸はいつか見える。真秀、信じるんだ、それを。恐れるのではなく、信じるんだー…』
そのとき、兄上の声がふと、聞こえたような気がした
兄上…!
涙が滝のように溢れだした。
絶えず流れ胸元にまで沁みこむ。
兄上、兄上、兄上、どうして。
死なないと、あたしに言ったのに。
あたしは、ふらりと一歩踏み出した。
水がぱしゃりと跳ねて裾を濡らす。
二歩、三歩…水はゆっくりと深くなり、足をのみこんでいく。
なに、してるんだろう、あたし…。
身を裂くような冷たさが腰までくる。水はやがて胸まで。
水に揺れて勾玉が浮かんだ。
静かな波は頬を濡らし、ついに足の届かないところまで来た。
あたしはがぼりと大きく水を飲みこんだ。
『ねぇ真秀、あたしを抱きしめて。黄泉神のように。生きることは難く、死ぬことは易く、だから生きなければと思うわ…。』
そう言ったのは、誰だったか。
確かにそうだ。死と生は紙一重の差だ。表と裏、影と光のように。それは限りなく近く、そして確かな隔たりがあるのだ。
生まれる命があれば失われる命もある。死とは生きていくその隣にいつもある。それを選ぶのは簡単で。
そして今、あたしは死に向かおうとしている。
何やってるの、まだ間に合う今すぐ踵をかえすのよとあたしが言う。
このまま死にたい、兄上と義母上に会いたいとあたしが言う。
二人のあたしが、正反対のことを言う。
そのせめぎ合いの中で、くらい、くろいいろが、どっぷりとあたしを包んでいく。あたしを飲みこんで、侵食してゆく…。
「兄様!兄様!」
「ん?なんだい、瑠螺蔚?」
「瑠螺蔚ね、大きくなったらね、兄様のお嫁さんになるの!」
「嫁?」
「そーだよ。それでね、どこかでね、お屋敷たてて、兄様と二人で暮らすの。ふふ」
「ははは。い
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