弐ノ巻
輪廻
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死ぬって、なんだろう。
命がなくなること。その意味を、失う辛さを、あたしは今までも経験してきた。実の母上が亡くなられた時の戦でも、その痛みを嫌というほど思い知った、その筈だった。
けれど。
死ぬって何だろう。生きるってどういうことだろう。
この目の前の煤けた骨が、兄上だと言うの?
この、軽くて、触れればぐずりと粉れる骨が?兄上の身体をつくっていた骨で、あたしの身体にもある、もの?
わからない。わからないわからない。
これが兄上と結びつかない。隣の骨は義母上のもの?それだって、わからない。義母上はこんな骨じゃ、ないよ…。綺麗な人だった。優しい人だった。それでも、もう笑いもせず、喋りもせず、こうして、ただ白く風にとけるのみなのだ。
人間って、死んだらどうなってしまうの。
ここには、兄上も、義母上もいない。薄情かもしれないけど、あたしは二人の器じゃなくて魂に会いたいよ…。
涙も出ない。
実感がない。
ただ一つだけわかるのは、あたしがどんなに心の底から願っても、二人には二度と会えないってこと、それだけだ。
あれからもうはやいもので三月が過ぎた。
あの火事は火のまわる勢いははやかったのだけれど、誰かが「火事だ」と知らせて回ってくれたので、大勢の人が無傷のまま逃げられた。
けれど。
義母上は発六郎に斬られた傷がもとで寝込んでいた。火の手が上がったころ、侍女がついていたらしいのだが、火事と言う声を聞いて一人でさっさと逃げ出してしまった。そのままどこかへ行ってしまったらしく探させてはいるらしいけど、その侍女の行方は今も知れない。
義母上の姿が見えないと誰かが気づいた時にはもう遅かった。火は屋敷を飲み、煙で先も見えない位だった。それでも義母上を、そして兄上を助けに向かった者もいた。皆戻ってこなかった。
そして、義母上の部屋と、兄上の部屋があったあたりから骨が出てきた。
住む家がなくなった父上は、一番近くにある淡海国内の前田の分家にいっている。
あたしは、佐々家に住まわせてもらって一日中ぼーっと過ごしていた。
目覚めてから、そして今も、なんだか夢の中のような、そんな気がしてあたしは現実と向き合えないでいる。
たまに川べりを歩いて、ただつっ立ったまま、黒く煤けた土が残る前田家があった場所を見る。
何かを考えてはいるんだろうけど、何一つあたしの中に残るものはなくただ時間だけが過ぎ、ふらふ
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