第二章「クルセイド編」
第二十五話「実証」
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中に転移されているらしい。そうなることはリオンも事前から聞かされてはいたが、それでもは100kgはあろう貨物が消えたのを見ると少々硬直してしまう。とは言えリオンの適応力も低くは無く、直ぐになれてペタペタとシールを貼っていった。
だがそのスムーズな作業もある貨物を前にしてぴたりと止まることになる。
「(リオン? どうかしたのか?)」
不審に思ったらしいエレギオの声が聞こえてはいたがリオンはそれに答えることをしなかった。彼のその目線は万力で固定されたかのようにある一点のみにそそがれている。その先には貨物の中身を知らせる『普通』のシール。
『西洋トウガラシ 80kg』
そう表示されていた。
「……………………」
天才剣士と評されるリオンにも幾つかの天敵が存在する。西洋トウガラシは(リオン本人は断固として認めようとしないが)その一つだった。何せ食事の際にそれが出てきた時にはリオンの高い能力をフルに使って電光石火の速度でしかもこっそりと他人の皿に移してしまうほどである。何と言う能力の無駄使い。
「…………………………」
リオンは沈黙していた。その内心に凄まじい葛藤を抱えながら。今のリオンの心の奥底では己のプライドだとかエレギオの指示の重要性だとか宿敵ピーマンの危険性とかを並び上げ天秤に乗せているのである。かの秘技『ピーマン移し』はなぜか良く破られるので(まるで天がちゃんと野菜も食えよーと言ってるかの如く)このまま持ち帰れば高い確率でピーマンの脅威を味わう。より正しくはピーマンを口にすることになってしまうのである。ちなみにエレギオはリオンが甘党だと言うのは知っていたが未だにピーマンを食卓に並べたことは無く、そのためリオンが何を悩んでいるのかは全くわからないのである。
「(リオン。聞こえてるのか? 返事しろー)」
「………………………………」
だが人間にはいつまでも悩み続けるだけの時間は天から与えられては居ない。どんなに苦しい選択であったとしても、たとえ正解なんて無かったとしても人間はいつかは選択しなければならない。2000万ガルド(日本円にして二億円)と言う一生を費やしても返済できなさそうな借金を背負った青年の如く。ピーマンか、意地か。さあ選ばなければならない。
「……………………………………」
時は有限で、こうして言う間にもタイムリミットは迫っている。
「…………………………………………」
選ばなくてはならない。一つの間違いが何かを壊してしまうと知っていたとしても。
「………………………………………………」
尋常ならざる雰囲気を天上眼ではなく肌で感じ取ったエレギオも沈黙した。
「……………………………………………………
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