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セビーリアの理髪師
1部分:第一幕その一
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「そうでしょうか」
 だがフィオレルロは首を傾げてそう答えるのであった。
「私には見えませんでしたが」
「そうか。ではいないのか」
 彼の言葉にいささか気落ちする。だが歌は続けた。
「しかし。それならば余計に」
「その意気です」
 フィオレルロは横から彼を応援する。主を。
「さあまた」
「うん。私が欲しいのは愛の一時」
「私が欲しいのは愛の一時」
 また合唱団と一緒に唄う。
「その甘い嬉しさに比べられるものはない」
「その甘い嬉しさに比べられるものはない」
 甘いカヴァティーナが終わった。伯爵はフィオレルロと楽師達を回りに集めた。
「今日も御苦労」
「いえいえ」
「今日も出られませんでしたね」
「時間が悪かったか?」
 伯爵はその窓を見ながら言う。じっと見据えている。
「明け方というのは」
「そうは思いませんけれどね」
 それにフィオレルロが答える。
「そろそろ起きられる時間ですし」
「そうだよな」
「なあ」
 楽師達も彼のその言葉に頷く。

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