第百十四話 幕臣への俸禄その六
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「ですからここはです」
「ご自身のことは宜しいですか」
「後でどうでもなります」
自分のことはだというのだ。
「ですからまずはです」
「ですな。それがしも母上とねねの為に」
「ねねといいますと」
「はい、わしの女房です」
他ならぬ彼の嫁だというのだ。
「いや、これが中々できていまして」
「そういえば羽柴殿の奥方はかなりの出来物と聞いてますが」
このことは織田家の中ではよく知られている。明智も織田家に出入りしているうちに知ったことなのである。
「そのねね殿がですか」
「そうです、わしの女房です」
「ですな。ではそのねね殿にもまた」
「錦の服をやります」
そうするというのだ。だがここで羽柴はふとあることに気付いた。
それで視線を一旦左にやってから元に戻してこう明智に言ったのだった。
「しかし考えてみればです」
「何かありましたか」
「いえ、母上もねねも錦の服なぞ着たこともなく」
まずはこのことがあった。
「それにいつも身体を動かしているので絹よりも」
「他の服ですか」
「麻、近頃では木綿も出回りだしていますな」
「木綿はいいですな」
木綿と聞いて明智も言う。
「織田殿は茶に紙、菜種、それに木綿をかなり作らせていますが」
「木綿は服になりますから」
それ故になのだ。
「殿も百姓達にどんどん作らせています」
「そうされていますな」
「百姓は年貢を納め」
これは絶対だった。
「後はよいと仰っています」
「茶やその木綿の稼ぎは全て百姓のものですな」
「殿はそうされています」
「米は納めさせても」
「その米の年貢も安くしておりますし」
確かに法は厳しい信長だがそうしたことは緩やかなのだ。年貢についてはかなり軽いものにしているのだ。
「民は喜んでおります」
「しかもそれでいて、ですな」
「国は潤っています」
「ですね。それが今の織田家です」
「それで百姓達も木綿がどんどん売れますので」
売れるものは誰もがどんどん作る、それでだった。
「木綿の服も出回っていますな」
「はい、それがどんどん増えるかと」
「木綿は実に色々使えますので」
「我等が着る服にもいいですな」
「実に。ですから母上もねねも」
錦より、だというのだ。
「好むでしょうな」
「私の母上もです」
明智も己の母のことを言う。
「錦よりもです」
「綿ですか」
「その方を好むやも知れませんな」
「質素なのですな」
「それがしがかけた苦労は身についてしまったとしたら」
明智の顔がここで申し訳のないものになる。
「それがしの不孝です」
「いやいや、今こうして孝行のことを考えられていますから」
「それがしは不孝ではありませぬか」
「そう思いますが」
「そうであればいい
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