第十一章
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う子を言うんだな。ここを出れば一流のプログラマーとしてやっていける実力があったんだが、あの子は退院を望まなかった。…家族も、望んでいなかった」
…その通りだ。話題にのぼらせることさえ、厭われていた。改めて人の口から聞かされると、なんて恥ずかしい話なんだろう…。
「もちろん、それだけの話でもないが。…自我を押さえつけられてきたあの子には、社会で荒波にもまれながら生きていく力がない。…本人に言うと怒るが、とても繊細で脆いんだ。『事件』がなくても、遠からずこんな状況にはなってたよ。一見、傍若無人な危険人物に見えるかもしれない。でもあの子にとって今は、自我を発現させるための、いわば訓練の時期なんだ」
「…訓練」
そんな穏当な言葉では済まされないような危険を感じたが…僕の考えてることが伝わったのか、紺野さんは言葉を継いだ。
「14年間の抑圧と、持って生まれた異能がブレンドされてエラいことになってるが、そこはいずれ落ち着くだろ」
「…だといいけど」
「彼女は自由にプログラムを作り、ルービックキューブを高速で回転させて破壊する、それだけの日々を過ごしてきた。最初のうちは、過去の記憶だけではなく、言葉すら忘れ果てるほどに、そればかりに没頭していた。まるで、それらに埋もれて自分を消してしまいたいみたいにな。作るプログラムも、構造は天才的だったが意味のないものばかりだった…しかし5年、6年と経つうち、あの子は変わり始めた。俺やプログラム、ルービックキューブ以外のものにも興味を示しはじめたんだ」
紺野さんの口調に、彼らしくもない暖かいものが加わり始めた。まるで妹の自慢話をする馬鹿兄貴みたいだな、と思うと口元が緩んだ。
「作るプログラムの雰囲気が変わり始めたのも、その頃だったかな。それまでは、ただ作るためだけに作られた、命のないガラクタ同然のプログラムだった。…しかし、徐々にそのプログラムに『目的』が兆しはじめたんだ」
苦笑いを口元に浮かべて、言葉を切った。
「…ま、あの通り。ろくな目的じゃないけどな。散々な目に遭ったな…あいつが携帯に仕掛けた悪戯のせいで女と別れる羽目になったことも数知れないよ。…でもある日、あいつはまじですごいプログラムを作りやがった」
「…それが、MOGMOG?」
「惜しい。正確にはMOGMOGのインターフェースを司るプログラム…つまり、ハルやビアンキのキャラクターを司るプログラムだ」
当時の興奮がふいに蘇ったのか、紺野さんの声がうわずった。
「…あれが出来上がったとき、あいつはこう言ったんだ。『私は、私の中身を作った。これは、人間を構成するソフト』」
「人間を構成する、ソフト?」
「あのプログラムは、人間の脳内を流れる電気信号を、そっくり模倣したものなんだよ」
愕然とした。…人間の脳を模倣して作られたプログラム
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