第十一章
[6/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
放ってどうするの!帰れなくなるだけじゃん!!」
僕らの間を、稲妻のような衝撃が走った。隊長、敵陣営に思わぬ伏兵『方向音痴』が出現しました…!この戦の敗北を悟って崩れ落ちかけた僕を、紺野さんの力強い腕が支えた。
「諦めるな同志!方法はもう一つある」
「た、隊長…」
「どこかで、車椅子をがめてくるんだ。そして患者のふりをして柚木ちゃんをナビゲートする。…しかし姶良。この方法には重大な欠陥がある」
「その完璧な計画の何処に欠陥が!?」
「柚木ちゃんのナース姿をローアングルから堪能する権利に浴するのは、ただ1人!!」
「そ、それなら、腰骨がちょっと繋がってるシャム双生児という設定で、二人で車椅子に乗るというのは!?」
「シャム双生児とか思われる前に、重症なホモと見なされるに違いあるまい。ていうか、そうまでして俺とローアングルを分かち合いたいのかお前」
「くっ…僕らは争うしか道はないのか!?」
「残念ながらな!…恨みっこなしだぜ、姶良」
「望むところだ…だっさなっきゃ負っけよー、ジャーンケーン」
「ぽいっ!!」
渾身の『グー』と『パー』が繰り出され、勝負は一瞬で決着した。…僕は、儚く崩れ落ちた…
<i424|11255>
「…ふ、ふははははは…畜生、まだ手が震えてるぜ…!」
「くっ…どうでもいいジャンケンは結構勝つのに、何故こういう時ばかり…」
「盛り上がってるところ、悪いんだけど」
もはや呆れ果てた顔で、柚木が割って入った。
「もうナース服着せられるのは諦めるけどさ…紺野さん、そもそもここに隠れてる理由って、なに」
「そりゃ俺が顔さらして病院内ウロついてるとまずい……!!」
言いかけて、紺野さんはどさり、と崩れ落ちた。…や、やった、僕の逆転不戦勝だ!!
「まったくもう…いくよ、姶良」
「はい…」
恥らう乙女のように頬をそめて、静々と柚木のあとについていく。紺野さんがゾンビのように起き上がり、やはりゾンビのようにゆらゆらと追ってきた。
「…おい待てぇ…着替えないのかぁ、ナマ着替えが済んでないぞぉ…!」
「シャワーのついでに着替える。姶良、シャワー室に案内して」
柚木がぴしゃりと言い放つ。ゾンビは再び崩れ落ち、もう立ち上がる事はなかった。
手短に浴びてくるから、と言って柚木が2日振りのシャワーを堪能し始めて既に15分。…普段なら何でもないこの15分が、いやに長く感じる。ボイラー室の脇の倉庫からがめてきた車椅子に座り、毛布を膝にかけ、ゾンビが崩れ落ちながら手渡してくれたニット帽を深々とかぶる。誰が見たって、ちょっと寒がりな患者にしか見えまい。シャワー室から洩れ聞こえてくる、水の音と柚木の鼻歌に、そっと耳をそばだてる。
「この水音が、柚木ちゃんの柔肌を打っているのかと思うと…清流の趣だな」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ